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盤石の金メダル候補、福見友子敗退。
初五輪で待ち構えていた「魔」の瞬間。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byTetsuya Higashikawa/JMPA

posted2012/07/29 13:30

盤石の金メダル候補、福見友子敗退。初五輪で待ち構えていた「魔」の瞬間。<Number Web> photograph by Tetsuya Higashikawa/JMPA

得意の形に持ち込めず、準決勝で敗退。呆然とする福見友子。相手の研究と対策が勝っていたのか……。次の大会での成長に期待したい。

どん底から這い上がり、不屈の精神で臨んだ初の五輪。

 そこにつながったのは何か。

 試合早々に思わぬ指導を受けたことが焦りを生んだのかもしれない。

 園田監督の言う「(大会では)精神的なもの、プレッシャーがあったでしょうし、それをクリアできなかったのかなと思う」という部分かもしれない。

 容易に分析することはできない。

 今年6月に27歳を迎えた福見にとって、初めてのオリンピックだった。

 2007年、全日本選抜柔道体重別選手権大会で谷亮子を破って優勝しても、実績を理由に同年の世界選手権代表には選ばれなかった。選考に対して批判も相次いだが、結果として北京五輪代表にはなれなかった。

 ようやく2009年の世界選手権で代表になり優勝したが、浅見八瑠奈に2010、2011年の世界選手権決勝で敗れ、五輪代表が遠のき、一度は心が折れた。

 何度もどん底に落ちながらその都度這い上がり、ようやくつかんだオリンピックだった。

 これまでの濃厚な柔道人生すべてをかけて臨んだ大会である。思いはひとしおだっただろうし、その思いの大きさは計り知れない。数々の国際大会に出場し、場数を踏んできたとはいえ、これまでの足取りがこめられたオリンピックという舞台には、それらの経験を上回る重さがあったのかもしれない。

 ただ、今は、魔が差したとしかいいようがない。

「一本を獲りに行く柔道が貫けなかった」

 試合を終えて、福見は言った。

「相手は見えていましたし、自分のやることを出していこうと思っていました。いつもと変わらなかったんですけど、一本を獲りに行く柔道が貫けなかったかなと思います」

「金メダルを獲れなかったので、これが五輪だなと思います」

「一生悔いが残る試合だと思います」

 悲痛な言葉が並んだ。

 福見は、メダルを、目指してきた金メダルを手にすることができずに大会を終えることになった。

 メダルが獲れなかった結果は結果として残る。

 ただ、思う。

 理不尽と思える出来事に遭遇しても、「自分に問題があるからでしょう」と答えたのをはじめ、一切、人を非難したり、批判めいたことを言ったことがない。

 先に記したように、何度も突き落とされては、あきらめることなく、粘り強く立ち上がってきた。

 また、福見を知る人間は、誰もがこう語る。

「自分に厳しく他人に優しい」

【次ページ】 次の大会で、成長した福見を見たい。

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