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<トライアスロン女王への挑戦> 上田藍 「金メダルまで39秒」 

text by

赤坂英一

赤坂英一Eiichi Akasaka

PROFILE

photograph byAFLO

posted2012/07/11 06:01

Number誌の特別連載「LONDON CALLING~ロンドンが呼んでいる~」。
7月27日の五輪開幕に向け、このシリーズを全文公開していきます!


今回はトライアスロン女子日本代表、上田藍。
小柄な体格のハンディを乗り越え、世界との距離を縮めてきた彼女。
その成長の軌跡をコーチや自身の証言をもとに振り返る――。
Number796号(1月26日発売)掲載のドキュメントです。

「金メダルまで、39秒なんです」

 目を輝かせて、心から楽しそうに、上田藍は言う。最も過酷な競技の一つ、トライアスロンの代表なのに、悲壮感やストイックな雰囲気をちっとも感じさせない。

「この39秒差をどう詰めるか、いまからシミュレーションしているところです」

 と明るく語る表情は、いまから自身2度目のオリンピック出場が待ち遠しくてならないと言わんばかりだ。

 あんなに苦しい競技をしていて、なぜ? そう聞くと、かぶりを振って上田は笑った。

「私はトライアスロンを楽しんでるんです。どんなに苦しい練習も、さあ、きょうはどこまでできるんだろうと、自分の中で楽しみに変えられる。そうやって苦しさを乗り越えることが強さにつながる。それが楽しい。一般的に過酷と思われているのは、アイアンマンレースのイメージが強いからでしょうね」

得意のオリンピック・ディスタンスも、北京五輪では17位の挫折。

 アイアンマンの「ロング・ディスタンス」はスイム3.8km、バイク180km、ラン42.195km(フルマラソン)。これに対して、五輪の「ショート・ディスタンス」はスイム1.5km、バイク40km、ラン10km。別名「オリンピック・ディスタンス」とも呼ばれている。女子の優勝タイムは平均2時間前後と、マラソンの世界記録よりも短い。

「それぐらいスピード感のある展開の中に、水泳、自転車、ランニングと3種類の競技がある。様々なタイプの選手がいて、いろんな駆け引きがある。そういうレースの面白さをもっと知ってもらえれば、トライアスロンのイメージも変わってくるんじゃないかな」

 このオリンピック・ディスタンスのプロである上田が、初めて五輪に出場したのは2008年の北京だった。最後のラン勝負でライバルをごぼう抜きにする走力に定評があり、メダルを期待されながら結果は2時間2分19秒09の17位。金メダルの選手との差は3分51秒43と、いまとは比べ物にならなかった。

 その後の4年間の練習とレースで、上田は着実に「苦しさ」を「強さ」に変えてきた。4分近い金メダルとの差も縮めてきた。それだけ成長したことを世界のトライアスリートたちの前で証明したのが、昨年8月6日のITU(国際トライアスロン連合)世界選手権シリーズ・ロンドン大会だった。

<次ページへ続く>

【次ページ】 バイクで差を詰める秘訣は“ライバルとの対話力”。

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