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涌井無き西武を支える“新エース”、
岸孝之の盤石の安定感を検証する。 

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byTamon Matsuzono

posted2012/06/13 11:35

涌井無き西武を支える“新エース”、岸孝之の盤石の安定感を検証する。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

今年はキャンプから開幕投手を意識していると発言していた岸孝之。過去2年間の故障を考えても、岸が今季にかける思いが強いことが分かる。渡辺監督も涌井と競わせる予定だったはずなのだが……。

なぜ岸は好不調の波が極端に少ないのか?

 にもかかわらず、岸の好不調の波が極端に少ないのは、彼のなかのリスクマネジメントが円滑に機能しているからだ。

 昨年は故障もあり、入団から4年連続で続いていた2ケタ勝利が途切れた。今年の開幕前にしても、3月に背中の張りを訴え二軍落ちするなど調子が良かったわけではない。

 それでも、岸は焦らなかった。

「ボールはもう慣れています。特別意識もしていません」と言うように、統一球の影響もない。ただ、もっとリリースポイントを前にして、角度のあるボールを投げるために、シーズン前から捕手をホームより前に座らせての投球練習は、定期的に行なうようにしている。

「ボールを叩きつけるように投げる」を何度も確認する。

 実戦でも、毎試合のように自分と向き合っている。

 5月2日の楽天戦では変化球を多投したあまり、2回9安打、6失点と炎上してしまい猛省。9日の同カードでも負けはしたが、ストレート主体の投球で1失点の完投と好投し、続く17日のDeNA戦では4安打9奪三振で完封と、力で相手をねじ伏せた。

 5月30日の広島戦では6回2失点と最低限の仕事は果たした。だが、カーブをはじめボールが高めに浮いたところを痛打され、チームに勝利を呼び込むことができなかった。

 そういう試合をなくすために、岸は前述した捕手を手前に座らせての投球など、練習中はもちろん試合中でも、意識的にボールを低めに集めるよう心掛けた作業を行っている。

 ヤクルト戦でそれを見ることができた。

 イニング間に行うベンチ前でのキャッチボール中、変化球をわざと地面にワンバウンドさせて相手に投げる。

 それは、岸が「ボールを叩きつけるように投げる」という、変化球を投げる際の基本とも言えるイメージを持ち、低めに投げることを常に心掛けている証拠だろう。

 これらについて岸は、「意識の問題です」とサラリと言ってのける。ただ彼のように、日々の細かい自己調整ができるか否かで、シーズンを通して活躍する投手としての背骨の太さは大きく変わってくる。小さな積み重ね。それが今の彼を支えているのだ。

【次ページ】 「ゲームを作ることだけを考え、一生懸命に投げるだけ」

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