オリンピックへの道BACK NUMBER
打倒世界王者の鍵は“攻めの前半”。
進化した泳ぎで勝負する入江陵介。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byHiroyuki Nakamura
posted2012/06/05 10:30
ジャパンオープンのレース後、入江は道浦健寿コーチから「おまえがバテたのを初めて見たよ」と声を掛けられた。前半から仕掛けるという課題を克服しつつある。
打倒ロクテを果たすために筋力トレでスピードを強化。
ただ、まだ世界一には届いていない。
入江の前に立ちはだかるのは、ライアン・ロクテ(アメリカ)だ。北京五輪200m王者であり、昨年の世界選手権200mでも金メダルを獲得している。
昨年、ロクテに敗れたとき、入江が痛感したのは、スピードの絶対的な差だった。
入江は後半、特に残り50mでペースが落ちないのが強みだ。一方のロクテは、前半からの瞬発的なスピードに秀でている上に、持久力もある。
世界選手権では前半の100mでロクテに0秒40の差をつけられ、入江は3位でターン。その後、2位にいた選手は抜いたものの、ロクテには及ばず、1秒15の差をつけられることになった。
ではロクテを倒すにはどうすればよいか。その答えとして見出したのが、前半からロクテに対抗できるスピードを備えることだった。そのための準備もしてきた。北京五輪後、徐々に取り組み始めていた筋力トレーニングを本格化し、パワーをつけることでスピードの強化に取り組んできたのだ。
手強い王者が相手だが「ロクテのペースにはさせません」。
その成果を示すように、今回のジャパンオープンの200mで、これまでにないレース運びを見せる。前半、'09年の高速水着の頃に出した日本記録を上回るタイムで入ったのだ。これは昨年のロクテのタイムを0秒21上回るものでもあった。
今大会へ向けてピーキングを行なっていなかったこともあって、最後の50mこそ疲労からペースは鈍り、日本記録には届かなかった。だが、大会の場で、これまでにないペースでの泳ぎを体感できたことは、成果となった。
「150mまではいい泳ぎができました。疲れがある中で、この内容は自信になります」
そして、ロンドンへ向けて、こう語る。
「ロクテのペースにはさせません」
前回王者の実力は抜きん出ている。容易に勝てる相手ではない。
それでも、入江は、その強大な相手を倒そうという。練り上げてきた戦略を信じ、残り2カ月、さらなる強化に励む。