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新時代の早大が東京六大学を制す!
光った“全力疾走”と若き投手陣。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/05/31 10:31
昨夏の甲子園で日大三のエースとして優勝に貢献した吉永健太朗は、早大でも即戦力として大活躍。1年春の4勝は2007年斎藤佑樹(早大)以来史上5人目。4戦4勝は29年小川正太郎(早大)以来2人目で、戦後初の快挙である。
技巧派の先発2本柱と本格派の守護神が早稲田を守る。
アマチュア球界では、長身の本格派右腕を“ダルビッシュ2世”と形容することが流行している。
九州のダルビッシュ(ソフトバンク・武田翔太)、下町のダルビッシュ(ソフトバンク・吉本祥二)、浪速のダルビッシュ(大阪桐蔭・藤浪晋太郎)、みちのくのダルビッシュ(花巻東・大谷翔平)という具合である。
しかし、「長身の本格派」という要素以外、彼らとダルビッシュの共通点はない。ストレートの速さ、スリークォーターの投球フォーム、速くて変化が小さい変化球というダルビッシュ有(レンジャーズ)の特徴を最も強く受け継いでいるのは有原である。明大戦での乱調は気になるが、本調子なら相手打線を完璧に抑える実力を備えている。
高梨、吉永は変化球の精度が高い技巧的ピッチングに特徴がある。高梨のストレートは140キロ前後がせいぜいで速くはない。しかし、カーブ、スライダー、チェンジアップを使った高低の攻めを基本線にして、左右の揺さぶりは横変化のスライダーを使いと、緩急、コーナーワークを自在に操る。リーグ戦で投げた最長イニングは6回3分の2なので、残り約3イニングには2人くらいのリリーフにまかせることになる。そして後ろには有原という抑えがデンと控えているので、力の配分を考えないで投げることができる。
吉永の特長は打者の心理状態を読んだ配球の妙。
もう1人の吉永を「技巧的ピッチングに特徴がある」と書くことには抵抗があったが、140キロ台後半のストレートを投げていた日大三時代と打って変わり、現在はせいぜい最速143キロ、ほとんどのストレートは130キロどまりである。しかし、変化球のキレが半端ではない。
100キロ台のスローカーブ、110キロ台前半のシンカー、110~120キロの斜め変化のスライダーは目線を高低で揺さぶるだけでなく、スピード変化で打者の腰をたびたび折る。とくに攻略を困難にさせているのがシンカーで、ストライクゾーンに入れても打者は空振りをする。当然、打者は追い込まれる前に打とうとするのでボール球に手を出してくる。そういう心理状態をうまく読んでボール球を振らせる技が吉永にはある。
東都大学リーグを制覇した亜大の“元祖・全力疾走”。
駆け足で早大の強さに迫ってみたが、6月12日から開幕する第61回全日本大学野球選手権大会で最大のライバルとなるのが東都大学リーグの覇者、亜大である。
亜大と早大は持ち味が似ている。元々、全力疾走をここまでポピュラーにしたのは亜大の功績である。グラウンドでは「全力疾走」の4文字を石碑に刻むほど全力疾走を徹底し、松田宣浩(ソフトバンク)が2年生だった'03年春には、7人が全力疾走のタイムクリアを果たしたこともある(4月9日の中大戦)。