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モナコGPで目撃した驚異の頭脳戦。
超スローペースで勝利したウェバー。 

text by

尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byHiroshi Kaneko

posted2012/05/30 10:30

モナコGPで目撃した驚異の頭脳戦。超スローペースで勝利したウェバー。<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

今季これまで6つのレースで6人の優勝者が誕生している。ウェバーはモナコで2度目の勝利。2位となったロズベルグは中国GPでの初優勝に次ぐ2位フィニッシュ。このレースで3位に入ったアロンソがドライバーズポイント単独トップとなった。

1回ピットストップ作戦で一気に挽回を狙ったベッテル。

 そのルールを考慮して、Q3に進出しながらタイムアタックを行わずに、タイヤを温存するとともに、レーススタート時のタイヤを自由に選択できる権利を有したのが、昨年のモナコGPウィナーのセバスチャン・ベッテルだった。

 タイムアタックをしなかったために、ベッテルのスタートポジションは9番手だったが、もっとも軟らかいスーパーソフトを履いてスタートしなければならないトップ8のドライバーとは異なる戦略を採ることができた。

 それは、スーパーソフトよりも硬めのソフトタイヤでスタートして、1回だけピットストップでレースを乗り切ることだった。

 スタート時、F1マシンには約150kgの燃料が搭載されているため、もっとも軟らかいゴムで製造されているスーパーソフトの摩耗は早く、トップ8のドライバーたちが、78周のレースを1回ストップで乗り切るのは、ほぼ不可能だと考えられていた。したがって、2ストップ作戦でベッテルの1ストップに対抗するためには、1回目のピットストップまでにベッテルとのギャップをできるだけ広げるしかないというのが、大方の予想だった。

スタート直後の事故でウェバーの立場はより厳しくなったが……。

 しかし、レースはスタート直後に1コーナーで多重クラッシュが発生。いきなりセーフティカーが導入され、全車がセーフティカーの後ろでスロー走行を余儀なくされた。

 序盤、グリップ力のあるスーパーソフトを履いて飛ばしたかった2ストップ作戦勢にとっては、不利な展開となる。

 そのような状況にあっても、ウェバーは冷静だった。それは日曜日の朝、友人から受け取っていたメールに、モナコで勝つためのあるヒントを見出していたからである。

「主導権を握っているのは君だ」

 じつは、レース当日のモナコはやや雲が多く、スタート時の午後2時時点での路面温度は36℃。40℃を超えていた前日までの照りつけるような暑さはなく、タイヤにとっては比較的やさしいコンディションとなっていたのだ。

【次ページ】 モナコだから可能な超スローペースのレースに持ち込む。

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