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落馬を見たい人はいない。
騎手に必要な注意と自制。
~岩田康誠騎手の騎乗に思う~ 

text by

片山良三

片山良三Ryozo Katayama

PROFILE

photograph byYuji Takahashi

posted2012/05/27 08:00

落馬を見たい人はいない。騎手に必要な注意と自制。~岩田康誠騎手の騎乗に思う~<Number Web> photograph by Yuji Takahashi

NHKマイルCでのシゲルスダチとマウントシャスタ。後藤騎手の復帰は6月以降の予定。

「火事と喧嘩は江戸の華」という古い言い回しはあるが、競馬における落馬を見たいと思う人はいない。生身の人間や馬が危険にさらされる事故は悲惨だが、そのほとんどが不可抗力によるものであることだけは強調しておきたい。

 5月9日の栗東トレセンの坂路コースに、およそ似つかわしくない悲鳴が数分間、断続的に何度も上がった。急坂を上がり終えた1頭の馬が、頂上で騎乗者を振り落として暴走。よりによって、多くの馬が上がって来る坂路をUターンで下って行ってしまったのだ。その光景はまさに背筋も凍る恐ろしさ。高速道路の逆走事故が頭に浮かんだほどだ。

 暴走馬を避けきれずにぶつかった馬は3頭。どの馬も弾みで騎乗者が大きく飛ばされてしまい、その衝撃はかなりのものだったろう。それでも転倒に至った馬は1頭だけで済み、その後も被害を受けた人馬に深刻なケガの報告がなかったのは不幸中の幸いだった。

NHKマイルCでのシゲルスダチの落馬事故は不可抗力とは言えない。

 すぐに「犯人は誰だ!」とばかりに暴走馬に騎乗していた人間を責める声があがったが、坂路の頂上で高田潤騎手が倒れていることがわかり、なにかに躓いて人馬もろとも転倒し、その後馬だけがフラフラと坂を下りて行ったという目撃者の証言が伝わってきて空気は一変した。馬自身も頭を打ったかなにかで、意識モウロウとしていたと推測される。

 もっと可哀想なのは高田騎手だ。左鎖骨の粉砕骨折という重症の診断で即入院、即手術。反対側の右の鎖骨に治療のためのプレートが入ったままで仕事に復帰していたと聞けば、同情の声しか出てこない。馬を扱う仕事に潜む危険さが身にしみてわかる気がした。

 しかし、NHKマイルCの直線の叩き合いの最中で起きたシゲルスダチの落馬事故は不可抗力とは言えない。6着入線のマウントシャスタが失格となり、騎乗していた岩田康誠騎手には騎乗停止2週間のペナルティーが下されたように、それは誰の目にも明らかな進路妨害。自らの進路が開かなかったことでじれてしまったのだろうが、あのような自分勝手な騎乗は許されるものではない。人馬の命に関わるのはもちろん、見ているファンの信頼を損なう行為だった。馬を動かすことにかけては当代随一と認めるからこそ、岩田騎手には猛省を求めたい。

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