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「敗者の物語」を描き出す、
不況下で生まれた新雑誌。
~“読むフットボール”を掲げて~ 

text by

豊福晋

豊福晋Shin Toyofuku

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photograph byShin Toyofuku

posted2012/05/23 06:01

「敗者の物語」を描き出す、不況下で生まれた新雑誌。~“読むフットボール”を掲げて~<Number Web> photograph by Shin Toyofuku

昨秋の創刊から7号を出版。表紙を飾るのはスターばかりでなく、味のある選手や監督も。

 36年間続いたスペインの老舗サッカー週刊誌『ドン・バロン』。その昨秋の休刊は多くのファンを悲しませたが、それに代わるように新たな雑誌が創刊され、人々の心を掴み始めている。

 タイトルは元チェコスロバキア代表MFアントニーン・パネンカの名をとった『Panenka』。「新たなサッカー報道を」と集まったフリーライターや出版関係者を中心にバルセロナで立ち上がり、少しずつ販売網を広め、今では全国区の月刊誌となっている。

『Panenka』はこれまでのスペインのサッカーメディアとはひと味違っている。

 編集指針は「El Fútbol que se lee(読むフットボール)」。

 中心となるのは歴史、社会、政治などを絡めた、長く濃密な記事だ。試合のレポートは一切掲載されず、バルサとレアル・マドリーの2強に偏った記事もない。人気選手のインタビューよりもマイナーな外国人選手に焦点を当てる方針で、同誌のマニフェストには「勝った者よりも、負けた者のストーリーを」とある。

「日本サッカーを変えた男」として三浦知良の特集記事も掲載。

 ちなみに第2号の表紙は、元スポルティング・ヒホン監督のマヌエル・プレシアード。ちなみに同号には「ミスター・サッカー。日本サッカーを変えた男」というタイトルで、4ページに渡る三浦知良の特集記事も掲載されている。

 アート性の高い写真が多く使われ、ビジュアルとしても従来のスポーツ雑誌とは一線を画している。

 バルセロナ市内で同誌を扱うキオスクの店員は「5ユーロ(約550円)というスペインでは強気の価格設定だが、毎号完売しているよ。これまでにない深い内容が読者を掴んだのだろう」と語る。

『Panenka』は独自取材以外の記事と写真を、ドイツのサッカー誌『11Freunde』など、他メディアから買う方式をとっている。世界のサッカーメディアから質の高い記事だけを選び、それを買うことで取材コストや人件費は大幅に下げている。仏『クーリエ・アンテルナショナル』誌に似た編集方法だが、経済的な後ろ盾がない中でスタートした雑誌にとって、それは生き残るためのアイデアでもあった。

 記事の質とコスト削減を追求する中で誕生した、全く新たなサッカー雑誌。不況の中だからこそ生まれた『Panenka』は、確実に読者を増やしつつある。

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