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ついにクラブの身売りが表面化。
散々なリバプールを翻弄する「運命」。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byAction Images/AFLO

posted2010/04/29 08:00

ついにクラブの身売りが表面化。散々なリバプールを翻弄する「運命」。<Number Web> photograph by Action Images/AFLO

ファンが嫌っていたアメリカ人オーナーがついにクラブを手放すことに。しかし、新しいオーナーがファンが納得できる人物とも限らない……

 今シーズンのイングランドでは、“TSTDMS”という略語をしばしば見聞きする。“The Season That Doesn’t Make Sense(理解に苦しむシーズン)”の略語だ。プレミアリーグでは上位勢に取りこぼしが目立ち、FAカップでは破産申請で降格が決まったポーツマスが決勝進出を果たし、チャンピオンズリーグ(CL)ではベスト4を待たずに母国勢が全滅した。

 そして、この“TSTDMS”症候群の代表例がリバプールだ。昨シーズンはプレミア2位になり、「今季こそ優勝」の気運が高まっていたのだが、前半戦であっけなくタイトルレースから脱落した。その過程では、敵のシュートがスタンドから投げ込まれたビーチボールに当たってネットを揺らすという前代未聞の敗戦も経験している。CLではまさかのグループステージ敗退。FAカップでは、年明け早々の第3ラウンドでレディング(2部)に敗れた。当時、監督のラファエル・ベニテスはプレミア4位(CL出場権)を「保証する」と言っていたが、4月には自力での実現の可能性が消滅した。決勝進出を懸けたヨーロッパリーグ(EL)準決勝第1レグでは、アイスランドの火山噴火の影響で直接スペインに飛べず、陸路を含む48時間の長旅を強いられた挙句、アトレティコに先手(0-1)を取られてしまった。

米国人オーナーは約725億円でのクラブ売却を表明。

 火山の噴火とほぼ同時期に表面化したアメリカ人オーナー2名によるクラブ売却の意思は、数少ない「理に適った」出来事のように思えるかもしれない。オーナー同士の仲違い、両オーナーに対するサポーターの反感、膨らむ一方の負債と、彼らがリバプールを手放す理由には事欠かないからだ。

 だが、法外な値踏みは理解し難い。5億ポンド(約725億円)を上回る売却希望額は、両オーナーが「借入金」で支払った購入額のほぼ2倍に相当する。自分たちの下でクラブの価値は上ったというのが両者の言い分らしいが、確実に増えたのは2億4千万ポンド(約348億円)近くにも上る借金のみ。3年前のオーナー交替時には3位でプレミアを終えたチームは、トップ6入りに四苦八苦しているのが現状だ。

 もちろん、不当に高い査定額にもかかわらず、買収に興味を示す富豪や投資家は現れるだろう。チームはプレミア優勝も現実的と思われた戦力を抱えている。欧州を制した実績を持つ指揮官は、いまだにサポーターから絶大な支持を受けている。そのサポーターは世界でも最高レベルの忠誠心を持つ熱心な“信者”たちだ。市内には7万人規模の収容能力を持つ新スタジアム用の土地まで確保されている。「ドル箱」としてのポテンシャルはたしかに高い。

【次ページ】 8月までに売却できなければ主力選手放出の可能性も。

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