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可夢偉&ザウバー、かく戦えり。~パドックで聞いた苦戦の真相~ 

text by

田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

PROFILE

photograph byKozo Fukuoka

posted2010/04/28 10:30

開幕戦のバーレーンGPを経て、舞台は第2戦オーストラリアへ。
日本人ドライバーの小林可夢偉を擁し、今季初の入賞を目指して戦い続けた、BMWザウバーF1チームの3日間をレポートする。

 メルボルン市街、アルバートパークの特設サーキット。ザウバーのパドックでは、白いシャツと濃紺のパンツを身に纏ったスタッフが、ひっきりなしにガレージに出入りしている。フリー走行を数時間後に控えているとあって、周囲には張り詰めた空気が漂う。

 今季、小林可夢偉は、このスイスの古豪と命運を共にする。ザウバーというチームに、彼の存在はどう映っているのか。そして彼らは可夢偉と共に、19戦に及ぶ長丁場をいかに戦っていこうとしているのだろうか。

 最初に取材に応じてくれたのは、チーム代表のペーター・ザウバー。芝生の上に置かれたチェアに腰を降ろすと、こちらの目をしっかりと見据えながら質問に耳を傾ける。

――可夢偉と契約した理由から教えて下さい。

「普通、新しいドライバーを起用する場合にはテストをするが、カムイとはテストをせずに契約を結んだ。昨季の最後の2レースは、それだけインパクトが大きかったからね」

――あなたは過去に、多くの名ドライバーを育て上げてきました。ということは昨年末の時点で、可夢偉も彼らと同じ能力を持っていると判断されたということですか?

「いや、その手の判断を下すのは早すぎる。我々はまだ1戦しかこなしていないし、若いドライバーに多くを求めるのは酷だ。しかも一昔前と今とでは、ドライバーに必要とされる資質もずいぶん違う。ライコネンやマッサ等と単純に比較するのは無理だよ」

――でも、躊躇(ためら)う気持ちはなかった。

「もちろん。人選ミスはチームの命取りになる。私はカムイを正当に評価したからこそ契約したんだ。日本人ドライバーの中で、エンジンサプライヤーやスポンサーの後ろ盾なしにシートを獲得したのは、彼が初めてだろう」

「カムイはチームの新たな歴史の一部なんだよ」

――実際に仕事をした印象はどうでしょう。彼はチームにどんな影響を与えていますか?

「カムイの加入でチームが大きく変わったということはないと思う。我々はこの世界で随分と長い間やってきたからね(笑)。でも彼は既にチームに欠かせない存在になっている」

――BMWの撤退によってザウバーは新しいスタートを切りました。「新しいワインは新しい皮袋に」の喩えではありませんが、可夢偉の加入は象徴的なのではないでしょうか。

「その指摘は非常に正しいね。たとえば私は昨年まで契約していたハイドフェルドといい関係を保っているし、彼を起用する選択肢も当然あったわけだが、あえてそうはしなかった。それは新しい船出にふさわしい人材を起用したいと願っていたからなんだ。そこで我々の前に現れたのがカムイだった。カムイはチームの新たな歴史の一部なんだよ」

 続いて登場したのは、テクニカルディレクターのウィリー・ランプ。彼もまた、可夢偉と契約した必然性を異口同音に語る。

<次ページに続く>

【次ページ】 高い評価の一方で、トラブルに見舞われる可夢偉。

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