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ネルシーニョが唯一使う
日本語のインパクト。
~“キリカエ”が生んだ柏の快挙~ 

text by

浅田真樹

浅田真樹Masaki Asada

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photograph byAFLO

posted2011/12/27 06:00

日本のクラブを率いるのは柏が3度目。代表監督内定後、就任直前で破談になった過去も

日本のクラブを率いるのは柏が3度目。代表監督内定後、就任直前で破談になった過去も

 ネルシーニョ・柏監督の試合後の記者会見を聞いていて、おやっ、と思ったのは、今季なかごろのことだっただろうか。ポルトガル語で話すブラジル人監督の言葉のなかに、「キリカエ」という日本語が聞き取れたのだ。

 はじめは、聞き違いかとも思った。だが、その後の会見でも「キリカエ」は何度も出てきた。念のため、通訳を務める公文栄次に尋ねてみると、やはり「最初に覚えて、日本語で言うようになった言葉です」とのことだった。

 練習中にも「キリカエ!」の声は飛ぶというから、会見用ではない。工藤壮人が「監督が重要視していて、選手に一番伝えたいことなんだと思う」と話すように、あえて日本語で口にする唯一の単語は、すなわち、指揮官が目指すサッカーには何が不可欠かを示している。

 ただし、公文によれば、「監督が言うキリカエというのは、ほとんどが守りでのこと。でも、攻撃から守備への切り替えという意味だけではない」という。

「ボールを失ったら、一度自分のポジションに戻るのもキリカエだし、戻ったところからボールを取りに行くのもキリカエ。状況ごとに、いろんなキリカエがあるんです」

田中順也と工藤壮人が語るネルシーニョ流の“キリカエ”。

 外国人監督は、基本的に通訳を介して選手と対話する。しかし、だからこそ必要なときに、自分の口から直接何が問題なのかを、しかも、分かりやすい一言で選手に指摘することの効果は大きかったはずだ。加えて、選手にとってみれば、当然、外国人監督が日本語を使うことによるインパクトも強かっただろう。

 果たして、ネルシーニョ流のキリカエがチームに浸透していることは、今季の柏の試合を見れば、明らかだった。

 田中順也が「監督は守備のバランスを崩すことを嫌がる。(右MFの)レアンドロ(・ドミンゲス)が前に出ていれば、(FWの)自分が右サイドに戻るし、そういうところはシステマティックにやっている」と言えば、工藤は「そこを怠ると、うちのサッカーじゃなくなってしまう」とまで言い切る。

 キリカエ。今季のJリーグ最優秀監督がひとつだけ選び、好んで用いたその言葉は、柏が歴史的快挙を成し遂げるうえで、重要な意味を持つものだったのではないかと思う。

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