欧州サッカーのサムライたちBACK NUMBER
日本生まれの北朝鮮代表、鄭大世。
異邦人の疎外感と葛藤を乗り越えて。
text by
了戒美子Yoshiko Ryokai
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/12/21 10:32
11月にはドキュメンタリー映画『TESE』も公開された鄭大世。詳しくは、『TESE』公式サイトまで http://chongtese.net/
「結局、オレは日本に受け入れられないんだな」
そして、この試合にまつわる出来事は鄭大世の日本観を揺るがすものとなってしまったと言う。
「負けたのは単純にサッカーのこと。メンバーが代わり、試合に出た自分たちが焦って、そして負けた」(細貝萌)というピッチからの声よりも、ラフプレーが多かったことや、入国の際のトラブル、日本代表選手の宿舎での出来事など、北朝鮮への非難めいた声が、メディアなどの多くを占めた。
「日本のファンやメディアの負け惜しみが耳に入ってきたけれど、結局、オレは日本に受け入れられないんだなって思いました。オレは日本人っていうか、日本の文化で育った人間。日本人らしく、他人や物事に気を使うし、遠慮もする。日本の音楽を聞き、バラエティ番組も見る。だから、ドイツに来た最初の頃はオレ、何人なのかなと思った。でも、今は考えてもしょうがないって思います。ドイツにいたらアジア人という意味で中国人ともひとくくりにされるくらいだし。だからもう、いろいろ考えるのはやめました」
想像を越える葛藤を語る口調もまた、淡々としたものだった。
“2、3年後”に光り輝くために鄭大世は戦う。
代表戦を離れ、今、ボーフムで戦う日々は楽しいのだと言う。
「監督も信頼してくれて使ってくれているし、コーチ(カルステン・ナイチェル)も浦和にいた人だからJリーグ時代からオレのこと見てくれていたみたいだし。今、キレもどんどん戻ってきて、日本にいるころよりもキレてると思う。点をあまりとれてないっていうのが、情けないけれど」
2度目のW杯という夢は断たれた。だが、ここからの数年がプレーヤーとして重要な時期であることは間違いない。鄭大世は、既に走り出している。