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イビチャ・オシムが見たEURO予選 「列強のプライド、そして我が祖国が開く扉」 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2011/11/07 06:00

イビチャ・オシムが見たEURO予選 「列強のプライド、そして我が祖国が開く扉」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama
来年6月に開幕するEURO2012。予選ラウンドは全日程が終了し、後はプレーオフを残すのみとなった。グループDの最終戦、フランス対ボスニアが行なわれたパリには、イビチャ・オシムの姿があった。祖国ボスニアがフランスに挑んだこの一戦を中心に、今回の予選で見えた欧州の勢力図を、オシムが語る。

「パリを訪れるのは、ユーゴスラビア代表監督としてプラティニ率いるフランスと戦ったイタリア・ワールドカップ予選('89年4月29日)以来だから、22年ぶりのことだ」

10月11日、EURO2012予選ラウンド[グループD]フランス対ボスニア・ヘルツェゴビナ。78分、フランスはMFナスリが自ら獲得したPKを冷静に決めて同点に。ナスリはボスニアのジェコとともに今シーズンからマンチェスター・シティでプレーしている

 ワイングラスを前に、イビチャ・オシムは感慨深げに語った。

「当時は今と状況が逆で、ユーゴがフランスを勝ち点でリードしていた。グループで先行したのはスコットランドだったが、勝ち抜くのはユーゴかフランスのどちらかと見られていた。パルク・デ・プランスの試合は0対0の引き分けで、われわれはフランスにチャンスらしいチャンスを与えなかった。テクニックを誇示し過ぎたきらいはあったが、美しいサッカーを実践したのは間違いなかった」

 ボスニア・ヘルツェゴビナの協会幹部たちが宿泊する、パリ郊外、ヌイイ・シュル・セーヌにあるホテルのカフェ。実質的な協会会長として、同国代表団を率いて来仏したオシムは、数時間後に迫ったEURO2012予選ラウンド最終戦、勝者が本大会行きのチケットを手にするフランス対ボスニア・ヘルツェゴビナの一戦(引き分けの場合はフランスが予選突破)を前に、過去の記憶を甦らせていた。

スシッチ監督が、政治と宗教の違いを超えて選手の距離を縮めた。

「あのときのユーゴには、スシッチ(現ボスニア代表監督)やブヨビッチ兄弟など、フランスでプレーする経験豊富な選手がスタメンに5人いた。それに比べ今のボスニアは、大試合の雰囲気に慣れていない。ひとつのミスが命取りにならなければいいのだが……。フランス有利には違いないが、(ボスニアが)勝ったら今夜はシャンパンを開けよう」

 試合開始直前、祖国の可能性と、欧州列強の戦いぶりについて、オシムに聞いた。

――ワールドカップ予選でプレーオフに進んだ2年前と比べ、ボスニアは進歩したと言えますか?

「机上の話でいえば歴代最強だろう。選手の知名度こそ2年前よりも劣るが、グループの結束は固い。選手は誰もが仲間のためにプレーする。そういう状態にまで、チームはなかなか到達しえない。監督のスシッチが、政治と宗教の違いを超えて、選手の距離を縮めた。それぞれの民族と個人の利益しか考えなかった選手が、今はボスニアの旗のもとに心をひとつにして歩んでいる。とても大きな進歩だ」

【次ページ】 スペイン、ドイツなどの大国がもつ眼に見えない力。

イビチャ・オシムの「オシム問答」
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