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昨季CLベスト8の高揚感も雲散霧消。
主力残留も先行き不安なトッテナム。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2011/09/16 10:30

昨季CLベスト8の高揚感も雲散霧消。主力残留も先行き不安なトッテナム。<Number Web> photograph by AFLO

プレミア第3節、マンCをホームに迎えたトッテナム。プレミア屈指の戦術家・レドナップ監督(最前列・中央左)にも1-5と大敗するチームを救う術はなかった

主力の去就に振りまわされて後手にまわった選手補強。

 トッテナムが経営難に陥っているわけではない。ダニエル・リービー会長は、敏腕ビジネスマンとして知られる。昨年発表の数字によれば、クラブの負債額は、プレミアでは特別視されることのない80億円程度。マンUの約9分の1だ。但し、その収益規模も半分以下の140億円強。収入の基盤であるチケット収入は、スタジアム規模の違いから3分の1以下でしかない。

 年間指定席の空きを待つトッテナム・サポーターの数は、昨年末の時点で約35000人。収容人数を増やせば確実に収入増が見込めるが、現状の約1.5倍に当る6万人規模の新居への移転は、5年前から検討中のままだ。新スタジアム建設案は、コスト高で見直しを余儀なくされてもいる。

 一方、来夏の使用に向けて完成間近の五輪スタジアムへの入居は、ウェストハム(現2部)への譲渡決定に異議を唱える権利こそ勝ち取ったが、10月の再審問を経て決定が覆る見込みは薄いと言われている。

 片や、選手の人件費は昨年の時点で16億円以上も増えている。しかも今季は、昨季のグループステージだけで30億円近い追加資金をもたらしたCLという収入源もない。補強予算は選手を売って捻出する必要があったが、トッテナムは最後までモドリッチの去就に振り回された。

新戦力は移籍金ゼロのベテラン守護神と敵チームの“処分品”……。

 開幕前に獲得した新戦力のうち、即戦力と呼べる実力者はブラッド・フリーデルのみ。アストンビラから移籍金なしで手に入れた新守護神は、マンUとのデビュー戦からセーブを連発し、40歳の今も衰えぬ実力を示した。だが、GKの活躍はチームの劣勢も意味する。

 レドリー・キングとウィリアム・ギャラスの両ベテランCBを欠き、マイケル・ドーソンとユネス・カブールが代役を務めた最終ラインは、8月のリーグ戦2試合で8失点。レドナップが望んだギャリー・ケーヒルの獲得は、ボルトンが付けた約16億円の値札が実現を妨げた。

 ウェストハムから獲得したスコット・パーカーは、今秋で31歳になるが、指揮官の希望リストに挙っていた新戦力だ。但し、当人もロンドンのクラブでのプレミア復帰を望んでいながら、契約締結が移籍市場の最終日まで持ち越された裏には、値引き交渉があったと思われる。移籍金は当初の約10億円から3億円ほど下がったとされている。この新ボランチが間に合わなかったマンC戦では、守備力の低いニコ・クラニツァールがモドリッチとのコンビで先発。4バックの前に盾が存在しなかったチームは、レドナップが「個人的には過去最悪。二度と御免だ」と語る大敗を経験するはめになった。

 前線は、ピーター・クラウチの放出が、エマニュエル・アデバヨールの獲得で相殺されただけにすぎない。攻撃的なイメージが強いトッテナムだが、昨季のリーグ戦55得点はトップ6では最低。アデバヨールは、アーセナルでの3年前にプレミア得点王ランク2位の24ゴールを決めた実績を持つが、続くマンCでは昨季中に不要とみなされ、この夏には携帯メールで戦力外を告げられている。つまり、トッテナムは元ライバルの処分品に得点力アップの期待を託す有様。しかも、入手方法は財務上のリスクが少ないレンタルだ。

【次ページ】 アーセナルもマンUに大敗したがチーム状況は対照的。

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