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早大野球部の“バント伝来”107年目。
高校野球で、その功罪を見きわめる。 

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小関順二

小関順二Junji Koseki

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photograph byHideki Sugiyama

posted2011/08/11 10:30

早大野球部の“バント伝来”107年目。高校野球で、その功罪を見きわめる。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2010年夏の甲子園大会、優勝した興南の2番打者、慶田城開は随所にバントを決め、チャンスを広げる役割を果たした

今も昔もバントを制する者が甲子園を制す? 

 さて現在のプロ野球で、バント・犠打はどれくらい行なわれているのだろう。20年前の1990(平成2)年がパ・リーグ744、セ・リーグ691の計1435本、昨年(2010年)がパ745、セ750の計1,495本だから、あまり変わっていない。1試合平均で10年が1.73本、90年が1.83本。これくらいなら目くじらを立てることもない。

 バントが猛威を振るっているのはむしろアマチュア球界で、とくに高校野球が多い。昨年夏の選手権を振り返ると、大会期間中48試合が行われ、犠打数は合計241本。1試合平均では5.02本にもなる。プロにくらべ、バント・犠打が戦術の中心にあることがわかる。

 その効果にも注目すると、単純に犠打が多いチームが38勝8敗2分けと圧倒的な成績を収めている。それでは、この38勝のうち、先取点、勝ち越し点、同点打(勝ったチームだけ)に犠打が絡んだケースは何試合あったのだろうか。

<犠打が絡んだケース20回:犠打が絡まなかったケース18回>

 意外だが、バント・犠打は先取点、勝ち越し点、同点打にそう多く絡んでいない。

相手守備陣を揺さぶるためのバントが高校野球の特徴。

 では、どういうときに敢行されているのか。

 象徴的だったのが興南対明徳義塾の2回戦である。初回の先制点は興南・国吉大陸の三塁打のあと四球が2つ続いて無死満塁とし、4番眞栄平大輝の二塁ゴロ併殺打の間に1点。なおも2死三塁で、銘苅圭介がタイムリーを放ち2点目が入る。この間にバントは1回も行われていない。

 2対0の2回、3対1の5回、5対2の6回、6対2の8回、という具合に、相手校の明徳義塾が意気消沈したところでバントは行われ、2回以外は得点に結びつけている。チャンスは確実に打ってものにし、たたみかけるときにバントを交えて相手守備陣に揺さぶりをかける、そういうバント戦略が強豪校を中心に展開されているのだ。

 バントの効用は確かにあるが、一方でマイナス面もある。バントは基本的に1アウトを相手チームに与える。つまりワンチャンスをものにして最少得点を取りに行く作戦がバントである。3点差以上の場面で行われることが少ないのはそのためだ。

犠打に固執して大量得点のチャンスを潰すケースも……。

 しかし、3点差以上の差をつけられても敢行されることがある。

 昨年夏の埼玉大会1回戦、こんなプレーを見た。相手投手はボールが抜けまくりコントロール難でフラフラ。攻撃側は3対11で大量リードされているが、ランナーをためて一発長打が出れば流れがどう変わるかわからないという展開。何と言っても初回に一挙3点を取っている。

 その攻撃側チームに流れを変えるチャンスが訪れた。4回表、1死一、三塁で打席に入るのは5番打者。ここで信じられない光景を見た。打者がバントの構えをしているのだ。そして、失敗しても失敗してもバントのサインは変わらない。

 8点差の4回、あと2点取られたら5回コールド負けになるから、1点をもぎ取ってなんとしてでも負けを引き延ばしたい……そんな魂胆が透けて見える。その打者はスリーバントに失敗し、次打者が死球で出塁したものの7番が内野ゴロに終わり、結局無得点に終わる。

 これほど極端な例は少ないが、3点差以上の場面でバントが行われることは珍しくない。1死一塁の場面は当たり前で、1死二塁でもバントをするチームが多い。1点取るのに有効なバントを用いて、大量得点のチャンスをみすみす潰している、そう言ってもいい。

【次ページ】 日本球界を蝕む“高校時代のバント病”を一掃するには?

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