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野球規則に無い“Unwritten Rules”。
MLBに受け継がれる暗黙の掟とは? 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGetty Images

posted2011/08/09 10:30

野球規則に無い“Unwritten Rules”。MLBに受け継がれる暗黙の掟とは?<Number Web> photograph by Getty Images

7月31日、タイガース対エンゼルス戦、7回裏に起きた問題のシーン。本塁打を放ったカルロス・ギーエン(写真手前)とジェレド・ウィーバー投手が数秒間お互いに睨み合った

ノーヒット・ノーラン中のセーフティ・バント。

 このUnwritten Rules線上を彷徨う“負の連鎖”はこれだけに留まらなかった。

 その直後の8回表。エンゼルス先頭打者のエリック・アイバーが初球にセーフティ・バントを試みたのだ。記者席にいても球場の空気が一瞬凍り付いたのがわかった。結果は打球を処理したバーランダーの暴投となり安打にはならなかったが、球場に詰めかけたタイガース・ファンから一斉に大ブーイングが起こった。このセーフティ・バントが、ここまでノーヒット・ノーランを続けていたバーランダーの動揺を誘ったのか、再び自らの軽率なプレーで1点を失い、さらにこの日唯一の安打を許し2点目を献上。結局8回で降板することになった。

 前述のウィキペディアの「野球の不文律」にはこんな項目も紹介されている。

<ノーヒット・ノーランや完全試合の阻止(あるいは投手タイトルがかかっている場面も含む)のみを目的としたバントはいけない>

「(バントは)驚いた。だが3点差だったし、賛否両論の議論があっておかしくない」

 試合後のバーランダーは笑顔を交えながら話していたが、やはり8回でのバントには正直驚いていたようだ。一応、ソーシア監督のみならずジム・リーランド監督や野球アナリストたちも地区首位を争う両チームの立場、試合展開から正当なプレーだったと評しているが、どうやらタイガース選手の中には違った捉え方をしている選手もいるようだ。

 セーフティ・バントから1点目のホームを踏んでベンチに戻ろうとしたアイバーに向って、タイガースの選手の一人がベンチから「来年見てろよ」と叫んだという。

ウィーバーの危険球退場がセーフティ・バントの布石に?

 思い起こせば10年前にもこんな出来事があった。

 2001年5月26日のダイヤモンドバックス対パドレス戦で、カート・シリングが8回1アウトまで完全試合を続けていた。

 ここからベン・デービスがセーフティ・バントを試み内野安打で出塁した。その直後にダイヤモンドバックスのベンチからデービスに対して強烈な罵声が浴びせかけられた。この時もアナリストたちは試合展開が2-0だったこともありデービスの正当性を主張したが、当時のダイヤモンドバックスのボブ・ブレンリー監督はデービスに対し「卑怯者」呼ばわりで強く批難した。

 結局この試合も後味の悪さが残ってしまった。あくまで“たら・れば”の話ではあるが、もしウィーバーの危険球退場がなかったとしたら、8回にアイバーのセーフティ・バントがあっただろうか。

 バーランダーの調子を考えると、あの8回がなければ今シーズン2度目のノーヒット・ノーラン達成も十分に考えられただけに多少の失望感を抱いているのは自分だけではなかったろう。

【次ページ】 MLB機構はウィーバーに出場停止処分を科したが……。

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