MLB Column from USABACK NUMBER

ディフェンディング・チャンピオン、
フィリーズの終わらない憂鬱。 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGetty Images

posted2009/10/03 08:00

ディフェンディング・チャンピオン、フィリーズの終わらない憂鬱。<Number Web> photograph by Getty Images

ブラッド・リッジ(Brad Lidge,1976年12月23日生まれ)は前属のアストロズでは好不調の波が激しく、クローザーの座を度々奪われていた。しかし、'08年フィリーズに移籍すると抜群の安定感抜群のピッチングを披露。ナ・リーグのカムバック賞を受賞した

 昨年のワールドシリーズ覇者フィリーズが、ナ・リーグ東地区3連覇を達成、今季もプレーオフ進出を決めた。

 ここまでチームOPS(出塁率と長打率の和)7割8分3厘はリーグ2位(以下、数字は9月30日現在)と、打線は屈指の破壊力を誇ってきたし、チーム防御率4.14はリーグ6位と、投手陣もまずまずの頑張りを示してきた。

 しかし、プレーオフに臨む体制は盤石かというと、実は盤石からはほど遠い。なぜかというと、「クローザー不在」という、致命傷となりかねない大問題を抱えているからである。

リッジに代わるクローザー候補4人の活躍しにくい事情とは?

 本来ならば、クローザーは、昨季、ポストシーズンも含めて防御率1.84、48セーブ、セーブ失敗0と、「完璧」な抑え役を務めたブラッド・リッジが務めるはずだった。

 しかし、今季のリッジは防御率7.34、セーブ失敗11と絶不調。プレーオフを目前に控え、「信頼できるクローザーがいない」という窮地に立たされているのである。

 いま、リッジに代わるクローザー候補として以下の4人の名が上がっているが、いずれも何らかの不安材料を抱えている。

 ブレット・マイヤーズ  本来は先発だが、2007年にクローザー役を務めた経験がある。今季は、6月初めに股関節手術。9月に復帰後救援に転向したが、病み上がりだけに不安が残る。
 ライアン・マドソン  今季はセットアッパーとして安定した仕事をしてきたが、セーブ機会16中失敗6と、クローザーとしては頼りなさが目立つ。
 ペドロ・マルティネス  先発投手は余っているので、マルティネスを救援に回す余裕はあるのだが、本人が同意しないだろうと言われている。
 J・A・ハップ  今季先発陣の一画に食い込んだ26歳の成長株。12勝4敗、防御率2.85と力は実証済み。2006年、カージナルスがアダム・ウェインライトをクローザーに起用してワールドシリーズ優勝を達成したように、若手先発投手をポストシーズンの抑え役に抜擢して成功した前例もある。しかし、クローザーとしての力量は未知数。

リッジ不調は今季だけでなく来季の編成にも響く大問題。

 そもそも、不調のリッジの代役がプレーオフ直前のこの時期まで決まってこなかった原因は、「いつか本来の調子を取り戻す」と期待し続けてきたことにあった。リッジの実績と昨年の優勝への貢献を考えた場合、「クローザー解任」という非情な決断を下すことができなかったフィリーズ首脳陣の「温情」は理解できないわけではない。

 しかも、リッジとの契約は、「2010、11年の年俸残高計2450万ドル」がまだ残っている。「本来の調子を取り戻してもらわないと、今季も含めて3年分の年俸3600万ドルが無駄になってしまう」という、「そろばん勘定」の観点からも、クローザー解任に踏み切ることはできなかったのである。

 フィリーズにとってさらに憂鬱なのは、クローザー問題は、目前に迫ったポストシーズンに限ったものでなく、来季以降のチーム編成にも重要な意義を持つことにある。

「リッジの不調は今季に限った一時的なものではなく、来季以降も復調はありえない」と判断した場合、新たなクローザー獲得を考えなければならないだけでなく、リッジの年俸残高「2450万ドル」をドブに捨てる覚悟もしなければならないのである。

 昨季の覇者フィリーズが、プレーオフ進出を決めたというのに「憂鬱」にならざるを得ない事情がおわかりいただけただろうか。

J・A・ハップ
ライアン・マドソン
ブレット・マイヤー
ブラッド・リッジ
ペドロ・マルティネス
フィラデルフィア・フィリーズ

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