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「特待生問題」の落としどころ。 

text by

小関順二

小関順二Junji Koseki

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posted2007/05/16 00:00

 高校野球界の特待生問題はさまざまなところに影響を与えている。たとえば僕も影響をこうむった。5月3日から西日本を回り、その初っ端の観戦を兵庫大会準決勝にするつもりだったが、4強のうち神戸国際大付高、市川高、東洋大姫路高が特待生違反で出場を辞退したため、予定を変更して岡山大会の準決勝を観戦せざるを得なかったのだ。ちなみに、兵庫大会は4強進出の市尼崎高と準々決勝で敗れた報徳学園と市神港高が3すくみで戦い、市神港高が優勝するというおかしな結果に終わった。

 神奈川でも準決勝進出の横浜高が特待生問題で引っかかり、5月19日からスタートする関東大会の不出場を決めた。今春は神奈川開催のため、地元神奈川勢は4校の出場枠が割り当てられていたが、横浜高の出場辞退もあり19校で戦われるはずだったのが17校で戦われることになった。こういう事態を僕はもちろん歓迎していない。

 この問題に答えはない。高野連(高等学校野球連盟)のように高校野球を教育の一環ととらえれば特待生はとんでもないということになるが、野球を世界に誇るスポーツ文化と位置づけ、その強化が国民に喜びを与えると考える僕のような人間にとっては、技量のすぐれた高校球児を特待生として遇するのは当たり前ということになる。高野連に対する風当たりが強くなっている現在、この問題はどう決着がつくのだろうか。

 僕は多くのマスコミのように高野連に対するアレルギーがない。それはドラフト問題で、高野連が常に希望枠(逆指名、自由枠も含めて)撤廃を訴えてきたからに他ならない。好素質のアマチュア選手を巨人など一部の球団が占有しようとする流れに、マスコミも多くの球団もあまりにも無力だった。その中で高野連の強気の姿勢が巨人など一部球団の専横を食い止める働きをしたことは間違いない。見方を変えれば、希望枠は裏金が発生しやすい制度だから、これが高校野球に及べば「高校野球は汚い」というイメージが広がり、人気に翳りが出る。高野連はそういうファンの疑惑の目を最も懸念したのである。

 よき圧力団体として機能した高野連だが、この強気の姿勢は身内の加盟校に対しては独裁的に映ったようだ。日本学生野球憲章13条「選手又は部員は、いかなる名義によるものであっても、他から選手または部員であることを理由として支給され又は貸与されるものと認められる学費、生活費その他の金品を受けることができない」の条文を楯に違反がなかったか迫られ、これに384校が無言のまま自己申告していく様は不気味ですらあった。

 僕が「特待生はよくない」とする高野連に反対する理由はたった1つ。野球の進歩にブレーキをかけるからである。ちなみに、ドラフトの希望枠に反対したのも、一部の球団に好素質の選手が集まることがプロ野球の進歩を阻害すると考えたからである。

 高校野球の一部チームに好素質の選手が集まるのは進歩にブレーキをかけることではないのか、と問われそうだが、好素質の選手はいわゆる名門校だけではなく、北海道、東北、北信越、山陰という野球後進地区にも向かっているので、プラス要素のほうが多いと考えている。

 もちろん、お金が動きすぎることや、好素質の選手が一部チームに集まりすぎる弊害もあるので、特待生の数に制限を設けるというのがこの問題の落とし所だろう。違反したのが384校で対象部員が7971人なので、大まかに1つの高校に約20人の特待生がいると考えていい。ならば、1校10人くらいに制限すれば高野連の顔も立つのではないか。また、数を制限されれば特待生として迎える選手を選別する目も厳しくなるという利点がある。

 四国大会を観戦した友人のスポーツライターに聞くと、特待生がいなくなった済美高など有力校の戦力低下は目を覆うほどだったという。見方を変えれば、強豪校が強豪としていられるのは好素質の特待生にかなりの部分、依存しているということである。それは非常に情けない。

 高野連もつらい立場に立たされているが、ここは頭を柔軟にして考えてほしい。1校10人に特待生を制限すれば違反も摘発しやすい。しかし、特待生を認めなければグレーゾーンが新たな問題として浮上してくる。つまり「学業などで特待生の待遇を得ているから問題ない」と主張する選手が蔓延してくるはずである。そういうあやふやなゾーンを払拭する意味でも、高野連には人数を制限した上での特待生を認めてほしいと思う。

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