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From:ミラノ「殿様商売。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2008/03/10 00:00

From:ミラノ「殿様商売。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

チャンピオンズリーグの取材でミラノを訪れた。

泊まったホテルは値段は高いのに、古く、設備が悪い。

他のユーロ諸国はキレイになっているが、なぜイタリアはこうなのか。

 ドルに対する円高は進むいっぽうなのに、ユーロはまったく下がらない。ドルの影響を受けやすいのか、200円台まで下がっているポンドより元気が良い。いま僕はイタリアのミラノに来ているが、ユーロ圏内にいると、理不尽を感じずにはいられない。

 最もそれを痛感するのがホテル代だ。東京の3倍近くはする。地方都市のホテルと比べるなら4倍以上はするだろう。2食付きの温泉旅館だって到底適わない。

 僕がいま、高級ホテルに泊まっているわけではもちろんない。冴えない駅前の三つ星ホテルだ。備え付けのエレベーターは、上り下り兼用のボタンが一つしかない超旧式タイプが一機だけで、しかもロビーから4階まで上がるのに35秒もかかる。

 インターネットアクセス可とホームページには記されていたが、すべての部屋にワイヤレスが飛んでいるわけではない。可能な部屋は一部のみ。フロントに文句を言えば「ロビーなら問題なく通じるよ」と返してきた。何とかワイヤレスが通じる部屋に変えてもらったが、通信スピードは滅茶苦茶遅い。おまけに有料だ。

 さらに言えば、ベッドのスプリングは馬鹿になっているし、朝9時からガーガー工事を始めるし、困ったホテルである。

 これはミラノだけではなく、イタリアすべてに言えることだが、ホテルはおしなべて、レベルが恐ろしく低い。古いうえに設備が悪い。日本でこのサービスなら即倒産。泊まる人は誰もいない。これぞまさに殿様商売だ。

 中には、チャンピオンズリーグの試合当日になると、アウェーサポーターを当て込んで、宿泊料金を値上げするホテルもある。たびたび行われる見本市の際には、さらに値段が上がる。昨年9月に訪れた時は、やっと探し当てたと思ったら、安っぽい3つ星が3万8千円もした。だが、それでもホテルは満員になる。殿様商売に拍車がかかる。

 しかし、8月の北京はもっと凄そうである。五輪期間中の北京のホテルの値段を、この間、現地でチェックしたところ、通常1泊、270元(約4050円)のビジネスホテルが、期間中はなんと1550元(約23250円)に上がるのだそうだ。聞くところによれば、これはまだ良心的な方で、相場は、通常価格の7倍なのだそうだ。

 なぜ、ビッグイベントがあるとホテルの値段は上がるのか。いや、値段を上げるのか。これは、外国では常識的でも、日本には馴染みの薄い習慣だ。2002年のW杯の時も、そんなことはなかった。ディスカウント価格のサービスがなかったぐらいだ。

 お盆やお正月、ゴールデンウィークといった観光のピークでも、通常の何倍も値段が跳ね上がることはない。

 外国の一番嫌なところはどこかといわれれば、僕の場合はそれになるかも知れない。日本を見習え! と、声を大にして言いたくなる。

 飛行機の国際線の値段も、ホテル同様、定価があってないようなものだ。ハイシーズンと閑散期との間には、倍ぐらいの開きがある。シーズンに関係なく、旅行する者には、これまた困った話になる。

 ミラノの話に戻れば、だったらホテルの設備を新しくしろと言いたい。値段は同じように高いけれど、快適で綺麗なホテルが急増しているスペインと比べると、その差は歴然となる。同じユーロ圏内なのに、どうしてこうも差が出るのか。

 スペインの各都市は、久方ぶりに訪れれば、かつてとは見違えるほど、街が新しくなっている。いっぽう、ミラノはまったくそうではない。古いまま。90年イタリアW杯の頃と、何ら変わっていない。物価は高くなったものの、それに比例して良いはずの活気はあまり感じない。経済が良くなっているようには見えないのだ。

 地下鉄の構内は相変わらず暗いし、電車も古いし、空港のバゲージクレイムに預けた荷物が現れる時間も恐ろしく長いし。にもかかわらずそこに空港職員は誰もいない。ユーロ諸国を見渡しても、このダメぶりは珍しい。

 サッカーも例外ではない。セリエAに栄華を誇った90年代の面影はない。チャンピオンズリーグ出場組と、それ以外との差が、ここまで大きい国も珍しい。優秀な外国人選手も、年を追うごとに数が減っている。ドイツW杯で代表チームは優勝を飾り、ミランもUEFAクラブランキングで首位を堅持している。にもかかわらず、サッカー界そのものに、活力が漲っている様子はない。かつてが本当に懐かしく感じられる。

 ただ、格好の良いオヤジは相変わらず多い。ださいオヤジは少ない。他国のレベルもずいぶん上がっているとはいえ、オヤジのファッションセンスに関しては、イタリア人がダントツの首位を行く。

 いま僕が泊まっているホテルのフロントにいるオヤジも、冴えない3つ星の割にはカッコウが決まっている。身につけている衣装には、拘りを感じる。その点だけはさすがと言いたくなるし、見習うべき点になる。つい、ダメホテルを許したくなる、優しい気持ちも湧いてくる。悔しいことに。僕が女性だったら、もっと許しているかも知れない?

 最後に、お知らせを一つ。前回紹介させてもらった「サッカー番長」に続き、新刊がまたまた発売になります。タイトルは「4−2−3−1」。3月17日、光文社新書からです。新書ですが、本格巨編です。よろしかったら、ぜひ!

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