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ロマンティック・ビルバオの栄冠 

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横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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photograph byAFLO

posted2009/03/10 00:00

ロマンティック・ビルバオの栄冠<Number Web> photograph by AFLO

 アスレティックが国王杯のファイナリストになった。実に24年ぶりのことだ。

 過程がまた劇的だった。まずセビージャでの準決勝第1レグを2-1で落とし、次に地元で行われたリーガのセビージャ戦も1-2で落とし、やっぱりダメかと思われたところで第2レグを3-0の完勝である。スタンドをいっぱいに埋めつくした観客は、試合終了のホイッスルを聞くとまるで優勝したかのように感激し、ピッチになだれ込んだ。この夜のサン・マメススタジアムは、毎週のように足を運ぶ熱心なファンでさえ「今まで見たことないほどの熱気」に包まれていたという。

 アスレティックにとって国王杯は特別なタイトルだ。1902年に行われた事実上の第一回大会である戴冠記念杯(アルフォンソ13世王の即位を記念した大会。このときはビルバオFCとの合同チームで参加)から3連覇した後、31回決勝に進んで21回優勝。クラブのトロフィールームには、「3連続か非連続5 回の優勝」で永久保持が許されるカップが3つ、戴冠記念杯を加えると4つも飾られている。スペインサッカー協会は戴冠記念杯を別扱いしているので、公式優勝回数では24回のバルサに及ばないが、そんなこと彼らには関係なし。“国王杯の王”として、おそらく他のどのクラブよりも強い思い入れを持っている。事実、04-05シーズンの冬、ビルバオ出身の友人の口からこんな言葉を聞いた。アスレティックが10年ぶりのUEFAカップ16強入りを懸けた試合に挑もうとしていたときのことだ。

 「僕らとしては、UEFAカップもいいけれど、国王杯の方が欲しいんだ。クラブの伝統を考えるとね」

 現実的な価値を比べたら、どちらが上かは言うまでもない。なのに、アスレティックにとっては国王杯の方が重要だというのだ。結局この年は、UEFAカップはそこで敗退、国王杯も準決勝までしか行けなかった。

 アスレティックはこのご時世になってもバスク圏生まれか圏内のクラブで育った選手しかとらない、リーガ一ロマンティックなクラブである。その潔い姿勢に敬意を抱く人は多く、ジャーナリストの中でも、ビッグクラブの外国人傭兵軍団化にうんざりしたベテランなどが支持していたりする。

 だが一方で、そうしたロマンから生じるデメリットは多い。完全地元主義ゆえ全国的な超人気クラブにはなり得ないし、戦力の限界もハッキリしているので、サッカーがグローバル化した今の時代、本当に競争力のあるチームは作り得ない。現に今シーズンも最悪の序盤を過ごし、一時は降格ゾーンを彷徨い続け、ホアキン・カパロース監督の首が飛びかけた。今回の決勝行きはそのどん底から立ち直って成し遂げたものだから、クラブにとってもファンにとっても、喜びはひとしおだろう。

 ところで、天晴れな復活劇に直接関係あるのかどうかわからないが、先日エル・パイス紙に面白い記事が載っていた。カパロース監督がバスク語を作戦として利用しているというのだ。

 バスク語は世界に類を見ない言語で、知らない人には絶対にわからない。スペイン国内で話されている他の言語──カタルーニャ語やガリシア語は、スペイン語のネイティブスピーカーなら、初めて聞いてもなんとなくわかる。しかし、バスク語はそうはいかない。ピッチの上で相手に使われたら、国内試合は一転“国際試合”になってしまう。

 「海外のチームと試合をすると、相手の選手が何を言っているのかわからない。それが不安を生む。(バスク語を使うのは)特にセットプレイの場面などで相手を混乱させるのが狙いだ」とカパロース監督は意図を語っている。

 左サイドバックのコイキリ・レルチュンディは言う。

 「試合中は攻撃の際、相手の意表を突くためにバスク語を使ってる。単語をサインとして使うのではなく、ちゃんと話すんだ。たとえばフリーキックのときファーサイドに蹴るぞとか、ショートコーナーでいくぞとか。味方に『お前、いまフリーだぞ』って教えてやることもある」

 その他、仲間を鼓舞するときやオフサイドトラップを仕掛けるときもバスク語。選手の中にはフェルナンド・ヨレンテやアイトール・オシオのようにペラペラ話せない者もいるが、理解はできるという。

 アスレティックの特徴を活かした、このチームならではの武器。セビージャ出身のカパロースだからこそ思いついた策かもしれない。

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