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セリエAから過激サポーターを一掃。
新チケット購入方式でリーグが復活? 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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photograph byTakashi Yuge

posted2009/10/11 08:00

セリエAから過激サポーターを一掃。新チケット購入方式でリーグが復活?<Number Web> photograph by Takashi Yuge

イタリアでも日本でもスタジアム内での発煙筒は基本的に禁止されているのだが……

 海外サッカーを見ていると、ゴール裏席から発炎筒の火花がほとばしるシーンがある。さぞ熱いだろうな、とは思っていたが、実際に降りかかったそれは腕の上でバチバチと音を立て、かなり痛かった。ゴール裏席に充満した大量の煙で目と喉もやられた。4年前まで中村俊輔がプレーしていたレッジーナのホーム、『グラニッロ』での話だ。

 クルヴァ(ゴール裏席)で焚かれる発炎筒の量は凄まじいもので、長さ30cm×100連発のそれが5つ並べられたときには思わず身震いした。発火の衝撃だけで着火係の両手は裂け大量流血。あんな物騒なものはイングランドでもスペインでも見たことがない。南部イタリアのウルトラスには前科者も多く、気合いの入り方が一味ちがう。

 試合の前後にも周辺で殴りあいや投石があるから、イタリアのスタジアムに家族連れが来ようなんて思うわけがない。年間シート販売数は減り、同時にイタリア勢はピッチの中でも精彩を欠き始めた。危険な環境がファンの心をスタジアムから遠ざけ、セリエAから活気を奪っている一因であることは否めない。

認定証がなければアウェイ席の切符は購入不可能になる?

 だが、来年1月1日からセリエAのスタジアムの風景が少しだけ様変わりする。イタリア内務省の肝いりで『テッセラ・デル・ティフォーゾ(サポーター認定証)』制度がスタートすることになっているからだ。認定証は個人データが入ったICチップと写真つきのカードで、これがないとアウェイ・サポーター席のチケットが買えなくなる。実際に発行するのは各クラブだが、地元警察が申請者一人ひとりの犯罪歴をチェックする。過去5年以内にスタジアム近辺で有罪判決を受けた者はカードを所持できない。つまり、これまで傍若無人の振る舞いをしてきた輩をあらゆるスタジアムのアウェイ席から一掃するのが目的だ。内閣とイタリアサッカー協会は、この制度が「スタジアム離れを食い止める切り札だ」と相当入れ込んでいる。もちろん品行方正な人間なら、何もやましいことはない。安全なスタジアムが実現できるのなら、むしろ歓迎すべき制度なのかもしれない。

外国人ファンの排除につながるという批判も。

 ところが今、内務省は一斉に猛反発を受けている。認定証発行のために警察が個人情報を管理するというシステムが、「お上」からの押し付けを嫌うイタリア人の反感を買ったのだ。清廉潔白さの強要はかえって胡散臭い。大多数のセリエAクラブはファン感情を考慮して、制度導入に難色を示している。パレルモのザンパリーニ会長は「まるで警察国家だ。ファシズムだ」と徹底的に反対姿勢。代表監督リッピまで「これはゲットー(=人種差別的な隔離政策)だ」と非難の声を挙げた。

 制度上の不備もある。アウェイ・サポーター席以外なら認定証なしでもチケットは買えるが、例えば、認定書を持たない日本人旅行客が森本貴幸のアウェイ・ゲームを観戦しようと思っても、カターニャのサポーター席で応援することは不可能となってしまうのだ。内外へのPR活動も不徹底で問題は山積みだが、強面で知られるマローニ内務相は、来年1月の制度施行に向けて一歩も引かない構えだ。

暴走するサポーターもサッカー文化の一部だが……。

 日本に来てJリーグの試合を観たイタリア人は、マシンガンを持った機動警官隊がスタジアムにいないことに驚き、それを可能にする社会に絶句する。しかし、雄叫びを上げる満員の観客や燃える発炎筒もまた、遠い日本から憧れたセリエAの一部だったのも確かだ。自国のサッカー文化と現実社会との調和は、どの国のリーグにとっても真摯に向き合う課題であるはずで、イタリアの場合は、政治主導のサポーター認定証がセリエA再生のための「踏み絵」とされそうだ。

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