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アジアカップ予選A組 VS.インド 

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木ノ原句望

木ノ原句望Kumi Kinohara

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photograph byToshiya Kondo

posted2006/10/16 00:00

アジアカップ予選A組 VS.インド<Number Web> photograph by Toshiya Kondo

 「ゴールを決めたことより、外したことの方が……」。

 日本がインドに3−0で勝った10月11日のアジアカップ予選の試合後、そう話すFW播戸はどこか不機嫌そうにも見えた。もっと得点を決めることができたはず。FWとしてそれをできなかったのが悔しい。自分に対しての不満が顔に出ていたように見えた。

 確かに、いくつかあったチャンスに決めていればもう少し早く試合を終わらせることが出来ただろう。だが、その得点機を逃したのは彼だけではない。それ以上に、前半23分、44分の播戸の2得点で、日本はアウェーの戦いを優位に進めることができた。日本チームが欲しかった得点力だった。

 今シーズンのJリーグ16試合で15得点という好調さと、泥臭いとも表現されるゴールへの貪欲さを、彼はそのまま代表初先発となるこの日の試合に持ち込んだ。交代出場したガーナ戦に続く登板で、同じガンバ大阪のMF遠藤が体調不良で不在ながら、他のメンバーとの絡みにスムースさを見せ始めた。

 立ち上がりから積極的に前へ、ゴールへという動きを見せ、前半20分にはヘディングがクロスバーを叩く。その3分後に生まれた1点目は、左サイドからのMF三都主のクロスをヘディングで流したFW巻のボールに、ファーサイドに走り込みながら右足で合わせたもの。

 2点目は、右サイドからの三都主の速く低いボールに、ニアサイドに身をかがめるようにして飛び込んでヘディングで流し込んだ。

 「ゴール前でいかに仕事できるかをずっと考えていた」と言う播戸は、この日出場リストに名を連ねた巻や佐藤寿人、我那覇らとはまた違うタイプのFWだが、彼独特のゴールへの嗅覚を磨いてくれたら、決定力不足病にかかって久しい日本代表チームにとって、かなりの特効薬になるに違いない。

 その播戸の2得点と、後半37分のMF中村憲剛のミドルシュートを生んだのは、彼らがチームメイトと織り成した連動性だった。デコボコのピッチコンディションを考慮して、長めのパスやサイドチェンジを生かしてポジションを流動的に移動して組み立てる動きは、ガーナ戦やその前のイエメン戦以上に出てきているように見えた。ファイナルパスを受けるときのボールコントロールにミスがなくなれば、さらに決定的なチャンスとゴールが増えるのではないか。

 さらに、DF水本をケガで欠いた後半に、MF鈴木が最終ラインでプレーし、いくつかのポジションをこなせる能力と器用さを示した。これも、チームづくりにはプラス材料だ。2004年五輪代表編成時に当時の山本昌邦監督が二つ以上のポジションをこなせないという理由で鈴木を外したことを考えると、その後の彼の成長を示すものでもある。

 だがその一方で、チーム全体として、危ない場面を招いた不用意なプレーも気になった。中でも、ボールを失ったあとの対応がどこか緩慢で、予測の甘いプレーには軽ささえ感じられた。国内リーグと国際試合でのプレー基準に対する認識のずれだろうか。

 例えば、前半終了間際に迎えたCKを生み出すことになったプレーは、最終ラインからMF山岸へ縦パスを通そうとして、相手にボールが渡ってしまったプレーに始まった。相手に取られた後の対応が鈍く、そのままサイドの選手にボールをつながれてクロスを上げられ、ファーサイドでヘディングを打たれそうになった。その直後のCKでも、相手へのマークを外してしまい、ゴール正面でS・ディアスにシュートを打たれている。

 後半24分にFWブティアに振り向きざまにヘディングを打たれた場面も、動きが落ちた日本はディフェンスを詰め切れずにパスをつながれるという組み立てを許していた。

 FIFAランクでいえば136位と、47位の日本から見れば格下の相手ではあるが、ホームでプレーするインドはしっかりプレスをかけてきた。前半終了間際の場面など、失点していれば流れが変わるような重要な場面だ。プレーを見る限り、その辺の認識がまだ甘いように見受けられたが、それでは厳しい試合に勝つことはできない。

 オシム監督は、「疲れないためにはボールを持った時にもっと落ち着いてプレーすればいい。急ぎ過ぎたり焦ったりで、それができなかった。単純にプレーするべきところで難しいことをしようとして失敗する」と話し、選手の国際試合の経験不足を指摘した。

 だが、国際経験の浅い選手がこういう試合を通して、何ができて何ができないかを確認することからチーム全体のレベルアップが始まる。

 少なくともこの日代表初ゴールを決めた中村にはその認識があるようだ。彼は言った。「ポジション取りもパスの選択も、まだまだやることが多い。当たり前のことをやっていくことでチーム力は上がる。これからもしっかりと練習して、少しずつ伸ばして行きたい」。

 次は11月15日に札幌で、予選最終戦となる一戦で、現在A組首位のサウジアラビアを迎える。

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