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野茂英雄のDL入りに思う。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2004/07/12 00:00

野茂英雄のDL入りに思う。<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 ドジャーズ・野茂英雄投手が7月1日、今季2度目の故障者リスト(DL)に入った。理由は右肩回旋筋炎症ということだが、5月20日に右手人差し指の爪損傷でDL入りした1回目とは意味合いが違い、不振が続く野茂投手にチーム側が無期限の再生期間を与えたものだ。

 ここまで3勝10敗、防御率8.06。4月21日のロッキーズ戦以来勝利なしの9連敗と低迷が続いていた。6月30日のジャイアンツ戦で10敗目を喫した後、日米両国のメディアが“先発枠から降格”やら“トレード放出”など憶測報道で騒ぎ立てた。しかし結果は前述通りDL入り。改めてドジャーズ内における野茂投手のエースとしての存在価値を再認識させるものだった。

 確かに右ヒジ手術をした翌年の1998年に、成績不振だった野茂投手をドジャーズはメッツにトレードした実績がある。しかし今回は当時とは事情がまったく違う。まず当時は野茂投手のメディカル・データがなかったこと。あの時点では誰も野茂投手が元通りの投球を取り戻せるか判断する材料がなく、メディアからは限界説も囁かれたりもした。また当時の野茂投手はあくまで2、3番手の投手であり、トレード放出しても代わりの投手がチーム内に存在した。

 しかし現在の野茂投手は、ドジャーズ先発投手陣の大黒柱なのだ。過去2年の実績から、首脳陣たちは野茂投手にエースとして絶大の信頼を寄せている。だからこそ昨オフにケビン・ブラウンをトレードすることもできた。つまり現在チーム内に野茂投手に変わる存在はいないし、仮にトレード補強しても他チームのエースを獲得するしかなく、それ相当の犠牲が伴うことになる。900万ドルという年俸が野茂投手をトレードする障害になるという声もあるが、メジャーでは珍しくない年俸支払いを肩代わりし無償トレードすればいいだけのことだ。それをせず今回のような判断を下したのは、トレーシー監督やデポデスタGMが強調するようにドジャーズにとって最善の措置だったからだ。

 さらに今季の野茂投手の不振の原因として、球威不足や右腕の衰弱が取り沙汰されている。これも全面的に否定したい。例えば、前述のジャイアンツ戦での野茂投手のストレートの球速は81〜88マイルだったの対し、昨年6月20日のエンジェルス戦(7回1/3を投げ7安打2失点で勝利投手)では81〜89マイルとほとんど変わりはない。トレーシー監督が指摘するトルネードとセットポジションとの球速の差も今年に限ったことではなく、以前も走者を背負ったセットポジションの方が力を入れる分球速は増していた。

 実際、今回の不振の原因は球威不足というより制球力不足というのが正しいようだ。実際DL入りに合わせて野茂投手の右肩をMRI検査した結果、肩と腕の接合部分の緩みから肩関節の挫傷が発見された。コルボーン投手コーチも、この肩のブレが投球フォームの乱れを生み出し制球力を失ったと分析している。そのためDL期間中は炎症や挫傷を治した後、緩んだ肩周りを強化し正しいフォームを取り戻すことになる。

 「ノモが以前のような投手に戻ってくれると強い自信を感じている」コルボーン・コーチがチームの気持ちを代弁するように、ドジャーズが優勝争いをするためにもエース野茂投手が必要不可欠なのだ。とにかく1日の早い復帰を待ち望みたい。

 最後に余談になるが、読者の中に某スポーツ紙で今回の一連の野茂投手に関する私の署名入り記事を読まれた方もおられるかもしれない。このコラムとは正反対の内容だけに驚かれたことだろう。もちろん私は二重人格なわけでは決してない。比較的自由な立場の“通信員”ながら、大きな組織に入れば個人の意見が埋没してしまうことが多々ある。あくまで今回の意見が正真正銘、私の真意であることを理解して頂ければ幸いだ。

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