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「走れ!千葉ロッテ」〜高橋慶彦の挑戦〜 

text by

長谷川晶一

長谷川晶一Shoichi Hasegawa

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photograph byShoichi Hasegawa

posted2005/06/06 00:00

「走れ!千葉ロッテ」〜高橋慶彦の挑戦〜<Number Web> photograph by Shoichi Hasegawa

 1986年、『走れ!タカハシ』という小説が発表された。

 実在のプロ野球選手をモチーフに、彼のプレイに自分の人生を重ね合わせる市井の人たち。この連作短編集に登場する11人はスタジアムで大声で叫ぶ、「走れ!タカハシ」と。著者である村上龍は、あとがきの中でこう語る。「広島カープの高橋慶彦選手は、ファーストベースにヘッドスライディングしてもそれが様になる日本でも珍しいプロ野球選手である」と。その「タカハシ」こと、高橋慶彦は今、千葉ロッテマリーンズのベースコーチとして、一塁のコーチャーズボックスに立っている。

 「もちろん、『走れ!タカハシ』は現役のときに読んだよ。やっぱりうれしいよね。自分のプレイする姿に、走る姿に、何かを感じてくれたからこそ、ああして小説にもなったんだと思うし。今年うちのチームが、積極的な走塁をするのも野球本来の姿を取り戻したいからだしね。やっぱり“打つ”だけが野球の姿じゃないと思うから……」

 昨年、133試合を戦ったロッテの盗塁数は49個。今年は55試合消化時点で、すでに44個を記録している。今年の千葉ロッテは、とにかくよく走る。

 「それは監督が最後に責任を取ってくれるから、選手も走りやすいんだと思う。バレンタイン監督は、たとえ失敗しても絶対に、選手を責めるようなことはしないから」

 しかし、昨年も監督はバレンタインだった。当然、高橋コーチの功績も大きいはずだ。

 「オレが気をつけているのは、ただ“行け!”って言うだけ(笑)。“アウトになるなよ”というのは、要するに“走るなよ”ということと一緒。それよりも “牽制でアウトになってもいいよ”と言ってあげて、大きなリードを取らせたり、いいスタートを切らせるほうが大事だから」

 今年のキャンプでロッテナインは、セ・リーグの盗塁王・赤星憲広の盗塁シーンを編集したビデオで研究した。ビデオは監督自らの編集によるものだった。

 「ビデオを見て気づいたんだけど、赤星はスライディングを始めるのがセカンドベースのすぐ近くなんだ。それに対して、うちの選手たちは赤星の2倍の距離から滑り始めていた。遠くからスライディングを始めると、ベースにつくころにはどうしてもスピードが落ちるし、相手もタッチがしやすくなる。よく考えたら、オレ自身も現役時代は、ベースのすぐそばから滑り始めていたんだけど、あのビデオを見るまではまったく気がつかなかったね。オレにとってもすごく勉強になったよ(笑)」

 今年の千葉ロッテの快進撃を象徴する選手に、今年3年目の西岡剛がいる。西岡の話になると、高橋慶彦の頬が緩む。

 「彼はセンスの塊だよね。守備でも走塁でも打球勘でも。オレなんかセンスが全然なかったから、すごくうらやましいよ(笑)。彼は今のままでも十分だけど、超一流になるにはプレイのひとつひとつを磨きぬいていくことだと思う。セーフティーバントでも、盗塁のスタートに関しても。その意識を持ち続けていれば、必ず彼は超一流になれる選手だよ」

 西岡は、快足、スイッチヒッターのショート。まるで現役時代の高橋慶彦そのものだ。「西岡選手は“慶彦2世”ですね」と水を向ける。すると、即座に否定された。

 「このままちゃんとやっていけば、西岡は日本一のショートになれますよ。でも、それには自分ときちんと向き合うこと。僕は現役時代、目標にする選手はいなかった。やっぱり、自分自身との戦いだから。だから、僕の名前が出るうちはまだまだダメですよ。練習を通じて、自分のスタイルを見つける。強いて言えば、それが彼の課題かな。やっぱり、彼には“西岡1世”になってほしいからね」

 5月26日の対読売ジャイアンツ戦、4回表。ロッテの今江がセンター前にヒットを放つ。センター・ローズが緩慢な打球処理をしている間、今江は一塁を大きく回りセカンドベースを窺う。あわててファーストに返球をするローズ。しかし、一塁手・清原はそれに気づかず、送球は今江の足に当たりボールはライト方向に転々とする。その間に今江はサードに進塁し、次のバッターのスクイズで、ロッテは追加点を上げる。これこそ、まさに、今年の千葉ロッテの真骨頂ともいえるシーンだった。

 「うちの野球と巨人の野球が全然違うもののように見えたよね。相手にラクをさせない走塁。それが相手のミスを誘うことにもなるんだということがよくわかったシーンだよね。うちには走れる選手がたくさんいるから、これからもまだまだ、走り続けるよ」

 “走らせ続ける”ではなくて、“走り続ける”。高橋慶彦は、今も走り続けている。

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