MLB Column from WestBACK NUMBER

日本人で一番熱い男 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/07/15 00:00

日本人で一番熱い男<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 いよいよ週明けにオールスターを控えた、シーズン前半戦終了間際にこの稿を仕上げている。結局日本人メジャー選手の中でオールスターに選出されたのはイチロー選手のみだったが、他の選手たちはオールスター休みでリフレッシュして是非とも後半戦の活躍を期待したいところだ。

 前半戦を振り返って、日本人選手の中で個人的に最も印象的だったのが田口壮選手だ。確かにメジャー1年目から首脳陣を驚かす活躍をしている井口選手も称賛すべきところだが、それ以上にカージナルス入り後4年目にして田口選手が大きな前進をしていることに注目したいのだ。

 それは記録を見ても明らかなのだ。7月10日時点で、田口選手の出場数は70なのだが、そのうち先発出場したのは37。すでに昨年の36を前半戦だけで上回っているのだ。それだけでない。打席数も昨年は179だったが、今年はすでに170まで迫っているし、安打数も昨年が52に対し今年は47。さらに打点も昨年に1つ足りない24を記録しているし、本塁打に至っては昨年を2本上回る5本を放っている。まだシーズンは2ヶ月半残っているのだから、今シーズンの田口選手が、過去最高の成績を残すのは一目瞭然だろう。

 「昨年よりもトニー(ラルーサ監督)から信頼されているなというのは感じますね。これまでは左投手の時に起用されることが多かったですけど、調子がいいときは右投手でも使ってくれますからね」

 昨年の場合だと、シーズン後半にウォーカーが移籍後は、ウォーカー、エドモンズ、サンダースが先発組で、それにセデーニョ、メイブリー、田口選手が控えていた。その控え組の中でも3番手の扱いだったと思う。ところが今シーズン前半は、エドモンズやウォーカーに故障が続いたこともあり、先発3人に田口選手が加わり、4人でローテーションを回しながら先発していた。「ジプシー・レギュラー(定位置のないレギュラー)ですね」と、田口選手は冗談交じりに話してくれたが、今シーズンのチーム内の田口選手の存在価値は明らかに増している。

 「タグチは他のチームにいけばレギュラーでやれるだろう」

 ラルーサ監督も田口選手の実力は十分に認めている。だからこそシーズン途中でセデーニョをロースターから外してしまったし、メイブリーより頻繁に起用しているのだ。

 もちろん田口選手にとってここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。日本でFAを取得したベテラン選手ながら、最初の2年間はほぼマイナーで過ごした。そして昨年も契約上の問題で2度のマイナー行きも経験した。外野陣が豊富なカージナルスを自ら選んだとはいえ、決して素直に受け入れられる待遇ではなかったはずだ。それでも一歩一歩確実に前進し、首脳陣の信頼を増し続け現在の位置を掴み取ったのだ。

 「どこが痛いとか言っていられないですから。とにかくトニーが必要としてくれる場面で出られるように準備をしておくだけです」

 試合後選手の中で大抵最後にシャワーを浴びるのが田口選手だ。というのも試合後にコンディショニングとトリートメントに人一倍時間を割き、体調づくりに細心の注意を払っているからだ。つい最近36歳になったばかりだが、「チームの中で一番体力があると思いますよ」と自信たっぷりに話してくれた。これまで対戦した投手の全投球をすべて記録としてメモに残しているほど、田口選手は野球に対しいつも全力で挑み続けている。

 今シーズンもここまで好調のカージナルス。2年連続のワールドシリーズ出場も夢ではない。その時は田口選手も昨年以上の充実感を抱いて、勝利の美酒に酔っていることだろう。

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