チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER

チェルシーが見せた“弱者のサッカー”。 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

PROFILE

photograph byAFLO

posted2007/04/18 00:00

チェルシーが見せた“弱者のサッカー”。<Number Web> photograph by AFLO

 バレンシアがチェルシーに惜敗した。密かにプッシュする贔屓チームが、目の前で敗れ去る光景は、なんとも言えない独特の味わいだ。そのうえ、決勝ゴールはロスタイム……。

 惜しい。悔しい。残念無念。という感情には、しかし、あまり襲われない。僕はバレンシア人でもなければ、バレンシアのサポーターで永遠にありたいと思っている「バレンシア命」ではないからかもしれないが、理屈的にも敗退は順当だと思う自分が存在することは確かである。怪我人がいなければ……という気がするいっぽうで、この試合に限れば、敗戦には必然があったことを認めざるを得ない。チェルシーには絶対的な勝因があったのだ。

 後半の頭から、モウリーニョはジョー・コールを右ウイングに投入。それまでの2トップを3トップ(1トップ)に変更した。これが見事に的中した結果だと僕は思う。

 前半のチェルシーは、相手陣内に攻め入るとき、真ん中のルートを進んだ。ハーフウェイラインを超えると、その間口は極端に狭まった。ランパード(左)、エッシェン(右)の両サイドハーフ前方に、ボールを運び込むことができなかった。両サイドが使えず、バレンシアに呼び込まれるように、内へ内へと入っていった。それとは異なり外のルートを巧みに使ったバレンシアと比べれば、非効率は一目瞭然だった。その結果、自らが保持する莫大なエネルギーは、前進するほどに失われた。行き先をいとも簡単に寸断され、詰まる状態に陥った。

 それが後半開始早々、一転したわけだ。案の定、以降、チャンスの数は増大。僕は気がつけば、ゴールは時間の問題だと、恐ろしいほどクールな視線で、ピッチ上に描かれた接戦の模様を眺めていた。

 付け加えれば、モウリーニョは、バックラインの陣形も変更した。前半、菱形の中盤の底を担当していたナイジェリア代表のオビ・ミケルを最終ラインに下げ3バック(5バック)の体制を敷いたのだ。バレンシアの2トップに対し、センター2枚では危険だと思ったのだろう。1枚余らせる布陣を敷いたことが、最後尾の安定をもたらした。

 布陣を中盤菱形の4−4−2から、3−4−3(5−2−3)に変えたわけだが、これが2人の中盤(バラック、ランパード)を蘇らせる相乗効果も生んだ。前半、ポジションワークに苦しんでいた2人の大物は、窮屈から脱し、のびのびと実力通りのプレイを見せたのだ。

 バレンシアがモリエンテスを下げ、ビジャの1トップ型に布陣を変えると、トップ脇付近に位置することになった技巧派のシルバに対し、オビ・ミケルをマンツーマンで充て、センター2枚の4−3−3に布陣を変えたのだ。

 つまり1試合で3つの布陣を披露し、そして、ギリギリのところで結果を出すことに成功した。策士モウリーニョの真髄を見た気がした。

 準決勝を戦うリバプールのベニテスも、モウリーニョ的な監督に属する。ベニテスといわれて即連想するのが、イスタンブールでミランと戦った、04〜05シーズンのファイナルだ。前半、0−3とリードされたベニテスは、後半の頭から布陣を4−4−2から3−3−3−1に大改造して臨み、劇的な勝利を収めた。ともすると博打的に見えるが、以降の試合展開を見れば、それがいかに理に叶った作戦変更であったか、素人の目にさえ明らかになったはずだ。

 チェルシー対リバプールは、そうした意味で興味深い一戦になる。ともに監督はアイディアマン。選手をコマのように扱う術には抜群の能力を持つ。我々のスタイルはこれだと、常に泰然自若に構える横綱とは違う。言ってみれば、ヒディンク的な弱者の論理に基づく監督だ。

 バレンシアの敗因は言い換えれば、強者であるチェルシーに後半、弱者の論理で臨まれたことにある。本来バレンシアがやるべきことをチェルシーにやられてしまったわけだ。

 チェルシー対リバプールに話を戻せば、弱者はリバプールになる。リバプールが勝つためには、ベニテスが弱者の論理を、モウリーニョ以上に発揮する必要がある。

 準決勝のもうひとつのカードは、これとは正反対の対戦だ。ミラン、マンUとも横綱的なチームだ。アンチェロッティ、ファーガソン両監督は、少なくとも、試合中に布陣を大幅に変えて来ることが少ない、どちらかといえば保守的な監督だ。チャレンジャー風では全くない。

 蛇足ながらアーセナルのベンゲルも、後者に属する監督になる。受けて立つ癖がある。決勝トーナメント1回戦でそのアーセナルを破ったPSVのクーマンは、文字通りのヒディンク譲りだ。変形4−4−2の布陣でアーセナルに臨み、番狂わせの主役を演じている(前々回参照)。

 ビッグイヤーを獲得するのは、横綱風の監督か、弱者の論理に基づくアイディアマン監督か。強者なのに弱者を装うモウリーニョに一日の長があるようにも見えるが、一昨シーズン、横綱を倒すことに成功したベニテスも捨てがたい。結果はいかに?

ジョゼ・モウリーニョ
ラファエル・ベニテス
チェルシー
バレンシア

ページトップ