MLB Column from WestBACK NUMBER

MLBとクラブハウスの親密な関係 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/05/27 00:00

MLBとクラブハウスの親密な関係<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 メジャーの取材を続けていて個人的に楽しみにしていることの一つに、選手たちのプライベートな部分に触れること機会が多いということがある。

 というのも、すでに皆さんも知っていることだと思うが、取材するメディアは試合前と試合後に球場のクラブハウス(日本ではロッカールームと呼ばれる)に入ることが許可されているため、彼らがどのように時間を費やしているのか垣間見ることができるのだ。特に、試合前のチーム練習が行われるまでの選手の過ごし方は各自それぞれで非常に面白い。自分を含めメディアも普通の取材だけでなく、選手たちと世間話で盛り上がれる楽しい時間でもある。

 そんな彼らの行動を観察していて、最近選手、特に若い選手の間ですっかりブームになっているのが携帯ゲーム機のPSPだ。キャンプ終盤頃からPSPを抱える選手を目撃していたが、最近では取材したほとんどのチームで、練習前のクラブハウスでPSPに興じている選手が数人は必ず見かけるようになった。

 元々選手たちは、シーズンの半分を遠征に費やすため自分をリラックスさせるためのアイテムには人一倍関心を寄せている。もちろん一般人から比べれば経済的にも余裕があることもあり、娯楽アイテムが新登場すると、大抵選手のうち誰かしらが購入してくる。クラブハウスは選手たちにとって社交場としても機能しており、そういった新アイテムはすぐに選手たちの間で品評され、気に入ればすぐに自分も取り入れていく。ほぼ2年前のことだが、選手の間で一大ブームを巻き起こしたのがiPod。今では多くの選手の必携アイテムになっている。今回のPSPも、それに匹敵するブームの予感がする。

 今回は何もPSPやiPodを宣伝したい訳ではなく、クラブハウスの存在意義について考えてみたかったのだ。ここまで説明したとおり、メジャーのクラブハウスは単なる着替えをする場所ではなく、試合前、心身ともにリラックスできる場所だということが理解してもらえたと思う。以前にカージナルスの田口選手と話をしたときに、「(ホーム球場の)クラブハウスは僕らの自宅の一部みたいなものですから」と言っていたのが印象に残っている。

 たとえ遠征に出たとしても、(多少球場によっては差があるものの)快適さは変わらない。大抵クラブハウスの真ん中にゆったりしたソファが置かれているし、選手たちはトランプなどの卓上ゲームはもちろんのこと、何十本の映画ソフトを揃え大型スクリーンTVで鑑賞できたり、中にはゲームセンターにあるような大型ゲーム機を楽しめるところもある。さらに各チームは、ホームチームと遠征チームそれぞれを担当するクラブハウス・スタッフを雇い、選手たちをサポートしている。例えば遠征チーム担当のスタッフは、試合後のタクシーの手配やレストランの予約までしてくれる。まさに至れり尽くせりなのだ。

 野球に限らずアスリートたちが最高のパフォーマンスをするためには、「オン」と「オフ」の切り替えが重要だと言われて久しい。メジャーの場合、グラウンドで選手たちがプレーに集中できるよう、クラブハウスが見事な「オフ」の場を提供しているように思う。

 その一方で、メジャーにやってきた多くの日本人選手から日本の球場の“ロッカールーム”の悪環境を指摘する声を耳にしてきた。プロ野球の改革が叫ばれている今、ファン・サービスばかりに目を奪われるのでなく、こういった環境整備も考えるべきではないだろうか。

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