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From:香港「新年を迎えた香港の印象。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2006/02/07 00:00

From:香港「新年を迎えた香港の印象。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

新年を迎えた香港でカールスバーグ杯を見た。

代表の試合なのに、熱くならないスタジアムにいるファン。

取材に来ている日本人記者の真面目っぷりだけが目立っていた

 香港到着は大晦日の夜。僕はさっそく街に繰り出し、連れのカメラマンと「年越しそば」ならぬ「年越し粥」を食べていると、香港は無事新年を迎えた。

 A happy new year !

 日本のお正月に続く2度目のお正月。おめでたい僕に相応しい体験である。本当にめでたし、めでたしだ。香港のお正月は1月29日。この時期、恒例のカールスバーグ杯をチラッと覗くために、僕は香港にやってきた。

 香港はお正月といえども暖かい。日中はTシャツの上に薄手の長袖シャツ。夜でもその上にニットのサマーセーターを羽織れば十分だ。日本の4月下旬ぐらいの気候だろうか。例年より寒さが堪える厳冬の日本からやってくると天国に感じる。ここで中華メシをたらふく食べつつ、ついでに(?)サッカーが見られれば文句なし。

 スタジアムの良さも、そんな軽い乗りを後押しする。この大会の会場として使われる香港スタジアムは、切り立った岩肌と、超高層マンションがすり鉢状に取り囲む、非現実的なロケーションに特徴がある。スタジアムデザインも素晴らしいし、ピッチを望む視角も最高だ。もしここで、それなりの試合が行われる機会があれば、皆さんも是非お出かけを。「香港セブンス」も近々開催されるわけで……。あっ、それはラグビーか。でも、ディズニーランドもあるし、お買い物ゾーンも充実しているし。電車に40分揺られて、中国の何とかという街に行けば、ブランド品が超安価で購入できる、どでかいショッピングモールもあるのだそうだ。

 旅行者にとってありがたいのは、空港と市内を結ぶアクセスが優れている点だ。まさに電車で一直線。スッとした快適感が旅気分を盛り上げてくれる。香港、九龍の各駅には各航空会社のチェックインカウンターもある。申し訳ないけれど、成田や関空より機能性、快適性に何倍も優れている。空港が素晴らしい国は、スタジアムも素晴らしい──との僕の持論に、ダメを押す感じだ。

 だが、スタジアムには空席が目立った。香港代表が試合に臨んでいるというのにだ。レベルが低いからと言えばそれまでだが、香港対クロアチアより、デンマーク対韓国の方が観衆が多いとはどういうわけか。

 ファンの反応も不思議だった。対クロアチア戦で、相手に前半許した失点は、いずれもオウンゴールに近かった。普通なら、そのシーンがオーロラビジョンで繰り返し流れるたびに、天を仰いだり、ガクッと肩を落としたり意気消沈するものだが、彼らは違う。「ウォー」と、ハイテンションで絶叫するのだ。喜んでいる風にさえ見える。共有しがたい感覚である。

 クロアチアからやってきた記者たちも変だった。ある日、その代表チームが練習している現場を訪れれば、集まったのは日本人の記者のみで、クロアチア人記者の姿は人っ子一人見当たらないのだ。ディズニーランドへでも遊びに行ってしまったのだろうか。カジノのあるマカオまで足を伸ばしているのだろうか。練習風景に最後まで熱い視線を送る日本人記者たちが、馬鹿真面目に独り相撲を取らされている滑稽な集団に見える。

 韓国人記者も変わっている。せっかく香港を訪れているのに、朝昼晩キムチ、キムチ、キムチ。中華めしを一度も食べていないのだそうだ。そしてどうやら、それは今回に限った話ではないらしい。どこへ行ってもキムチ。現地の食には関心が向かないらしい。寂しいことに。そういえば、韓国でイタめし、フランスめしを食べた経験が僕にはない。韓国めし以外では日本のトンカツ定食ぐらいしか味わった例しがない。選択肢はバラエティに富んではいない。何にでも興味を持ちたがる日本人、世界各地の料理が居ながらにして味わえる東京とは、決定的な差がある。韓国の男性に、洒落っ気のある人物が少ないのも分かる気がする。

 悪く言えば日本人は軟弱。韓国人は愚直。そして、クロアチア人には美人が多い。この後に控えているザグレブ行きが待ち遠しい限りだ……なんて冗談はさておき、それに対して香港人は図々しい。いまだに偽物を平気で売り突けようとする。「ニセモノ・ロレックス・アルヨ」。街を歩けば、何者かが耳元で囁いてくる。本物だって全く興味がないんだから、黙ってろよと説教の一つもぶちたくなるが、そうこうしていると今度は「ニセモノ・ブルガリ・アルヨ」と、また別の何者かが囁いてくる。残念でした。本物のブルガリの時計にも僕は興味がありません。

 しかし、よく考えてみれば、片言の日本語で話しかけられるということは、僕が日本人に見られている証拠なのだ。正直ホッとする。なぜか悪い気はしない。でもロレックスやブルガリが好きな、よくいがちな日本人じゃあない。日本代表は危ないよ、と言い続けていたい少し変わった日本人。日本で浮いていたいタイプの日本人だ。そこのところをお間違えなくと香港のいかがわしい商売人サンたちに言ってやりたい。

 それは「新年」の誓いでもある。今年も出来る限り変人でいたい。本心では、僕ほどノーマルな人間は他にいないと確信しているが、それを押し殺し、敢えて変人を装う。そんな自分でいましょうと、中華めしをしこたま食べながら、僕は決意を新たにしている真っ最中だ。

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