佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

苦闘の末の大健闘 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2006/04/05 00:00

苦闘の末の大健闘<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 「今日嬉しかったのは、琢磨がバリチェロとクルサードの前を何周も走ってくれたこと。あれはウチのクルマのポテンシャルじゃないよ。琢磨がクルマの何倍ものポテンシャルを引き出してるんだ」

 レースが終った直後、鈴木亜久里から再び琢磨賞賛の声が飛び出した。前戦マレーシアでは、3リッター・エンジンのトロロッソを抜き返したパフォーマンスを誉めたが、今回は同じホンダ・エンジンのバリチェロを抑え続けたガッツを讃えた。4年目のマシンで、最新鋭のマシンを前に出さない。鈴木亜久里代表は「ラップタイムで3秒も4秒も違うんだからね。それを抑えるんだから……」と、感に堪えない声を絞り出した。

 いっぽう、当の琢磨は明るくその攻防を振り返る。

 「ルーベンスの後方からのアタックはきびしくて、複雑な状況なので『抑えていいのかな?』と思ったけど、ポジション争いしてるんでいいだろうと思ってました(笑)」

 同じホンダ・エンジン勢。いってみれば年上の親戚のようなチームのマシンをブロックしているわけで、一瞬躊躇はするかもしれない。しかし「攻めるレーススタイルは捨てたくない」と言う琢磨に、迷いはなかった。

 そもそもバリチェロ、クルサードを従えたのはスタートダッシュとその後の捌きが見事だったからだ。21位から一気にジャンプし「1コーナー、2コーナー、3コーナー、4コーナーと誰だったかは忘れましたが全部オーバーテイクして楽しかった」オープニングラップが終わってみると13位に浮上していたのだ。

 これで開幕3戦を18位→14位→12位と3連続完走。ただし、鈴木亜久里の賞賛はそれとして、3戦の中で今回のオーストラリアがいちばん苦戦したレースである。内容はすばらしかったが、トラブルの不安をかかえてのレースだったのだ。

 土曜日午前中はギヤボックスの油圧系トラブルでほんの数周しかできず、セッティングをキチンと確かめられないままの予選アタック。メカニックは金曜日深夜3時までかかって修理と点検にあたったが、新興チームゆえの悲しさで完全にはトラブル退治ができない。

 加えてレース終盤には左ホイールが外れかかるトラブルでピットイン。戦線に復帰はできたものの、数周後、今度は右ホイールが外れかかり、チェッカーフラッグはピットロードで受けることになった。異常に気がついてすぐに対応できたからよかったようなものの、ホイールは重要保安部品であるだけに一歩間違ったらクラッシュ、5回目のセーフティカー出動となっていたかもしれない。トラブルの話をする時の琢磨の表情はともかく、目は笑っていない。

 「速いマシンが欲しいよね」とは鈴木亜久里代表の述懐だが、速いマシンほど安全ということもできる。いま佐藤琢磨に必要なのは、なによりも彼の速さに見合ったマシンであることがハッキリしたオーストラリア・グランプリだった。

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