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From:バレンシア(スペイン)「スペインの車窓から」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2004/12/10 00:00

From:バレンシア(スペイン)「スペインの車窓から」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

特急列車でバルセロナからバレンシアへ向かった。

これぞ理想の旅ルート。エメラルド色の地中海を眺め

島々に思いを馳せる。電車ならではの醍醐味だ。

 バルセロナ〜バレンシアは「EURO MED」で2時間55分。11時にバルセロナ・サンツ駅を出発したアリカンテ行き特急列車は、バレンシア北駅に13時55分に到着する。

 車窓の眺めは文句なし。左手には文字通り「MED」ITERRANEAN SEAを望むことができる。快適さの追求こそが人生最大のテーマである僕にとって、この両都市間の移動は、理想的な旅ルートだ。

 あいにく天気は曇り。鈍い色の雲が空を一面に覆うが、地中海はエメラルド色だ。寝不足の目に、とても柔らかなタッチで迫ってくる。

 大久保が移籍するマヨルカは、その沖合に浮かんでいる。クラブ・ミュージックで有名なイビサ島があるのはその南。車窓に望むことはできないが、そのあたりに存在することは確かな事実である。

 だから何さと突っ込まれると弱ってしまうが、僕は、いま自分がいる地球上のポイントが常に気になるタチで、そういう意味で、それを無意識のうちに実感することができる電車の旅は、とても性に合っている。飛行機移動では味わえない確かな手応えがある。実際にはレールの上を滑っているのだけれど、地球の大地を踏みしめている僕の姿が、僕の目に跳ね返ってくる感じがして、自分の存在が自分で確認できたような、ホッとした気分になる。

 それにしても、ここ何年かの間に、スペインの鉄道がまともになった点には、改めて感激する。時間通りに出発して時間通りに到着する。日本では当たり前

になっている常識が、スペインにも定着した様子だ。快適さは約束されている。近い将来、バルセロナ?マドリー、そしてマドリー?リスボンにも新幹線が走 るという話だし、旅はますますバラエティに富むだろう。

 いっぽう、イタリアとイングランドは相変わらずだ。イタリアがダメなのは、何となく分かる気がするが、イングランドは、まともそうに見える国だけに、

余計情けなく見える。いま、ポンドは200円を超えていて、景気はスペインに負けないくらい良さそうなのに、電車はどうしてそういい加減なのか。

 人もまたアバウトだ。先日、リバプールのインフォメーションセンターで、いま大聖堂の展望台に上れるのかと訊ねた時、女性スタッフは、はっきり

「YES」と答えた。自信たっぷりの表情でだ。ところが、大聖堂に行ってみれば「NO」。この時期はクローズだとのこと。大聖堂はこの街の数少ない名所。市の観光課のスタッフなら、それくらいはキチンと把握しているべきものだし、自信がないのなら、調べるのが筋だ。ホントにもう困ったもんだ。

 もちろん、スペインでも、いい加減なところは、まだあちこちで見かける。電車のまともさには、だからこそ感激するのかもしれない。例えば先日、同行のコーディネーターに、バルセロナ名物のネギが食べたいと注文したところ、彼はこういった。「あれは2月。いまはまだ食べられません」と。だが、実際には、すでに出回っていた。彼と別れた後、タパス屋に一人で入ってみれば、それはショウケースの目立つ位置に堂々と、とても旨そうに盛られていた。彼には10年間、日本で暮らした経験がある。同行している間も、俺は他のスペイン人とは違ってテキパキしているんだぜってな態度を見せていたのだが……。ホントにもう困ったもんだ。

 「カルソッツ」と呼ばれるこのネギ料理は、カタルーニャ地方独特のものだ。茹でたネギを、炭火で焼くだけの調理方法だが(たぶんです)、焦げた外側の皮をむき、ミソに近い特製のタレにつけて食べると、幸せが口いっぱいに広がってくる。カウンターの隣に座るオヤジは、カルソッツをむしゃむしゃ頬張るそんな僕に「あんたはカタラン人みたいだなー」と話しかけてきたが、僕に言わせれば、この土臭さは、間違いなく日本の味だ。「あなたたちこそ日本人みたい」と、カタラン人に言い返してやりたいほどだ。帰国したら、さっそく日本のネギを使って試してみよう。タレも何とか作れそうな気がするし……。

 てなところでとウトウト。そして、ふと目を開けば、車内の気配が変わっていることに気が付いた。まだ1時35分なのに、もう棚から荷物を降ろしている人がいる。コートを羽織りだす人もいた。そして車内に「まもなくバレンシアに到着します」とのアナウンスが流れた。まもなくといったってもあと20分はあるはずだ。おかしいぞと思い、周囲の乗客に訊ねれば「15分ぐらい予定より早く着くらしいよ」だって。そんなのあり? 僕は慌ててパソコンをしまい、降りる準備を始めた。いったいこの国は、どうなっているんだ。特急列車が定刻より15分も早く到着する国は、世界でもこの国だけ。よくわからん。スペインは先進的(?)でもアバウトでもある変な国。で、明日はメシも電車もダメなイングランドへ行く。自分を大変がるのは不本意ながら、CLの旅は波瀾万丈だ。

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