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テレビがスポーツを殺す。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byHideki Sugiyama

posted2007/06/20 00:00

テレビがスポーツを殺す。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 アメリカやヨーロッパのスポーツのテレビ中継にくらべて、日本のスポーツのテレビ中継がおそまつなのは、いまにはじまったことではないが、日本のテレビマンたちはなぜアメリカやヨーロッパに勉強に行かないのだろう。それとも、大リーグやゴルフのマスターズやサッカーのワールドカップを見ても、あんなふうに中継したいと考えるテレビマンはいないのだろうか。

 アメリカやヨーロッパのテレビは、そのスポーツの醍醐味ばかりでなく、じつにとんでもないものまで映してわれわれを驚かせる。

 これは1998年のフランスワールドカップのときのことだが、オランダとベルギーの試合の後半36分に、オランダのクライファートにとつぜんレッドカードが出て退場になった。そのときはなぜそうなったのかまったく分からなかった。というのも、その直前にベルギーの選手からファウルを受けて倒されたのはクライファートだったのである。

 だが、やがてビデオが流されて分かった。クライファートはファウルされた直後は何もしないでブラブラしていたが、両チームの選手が入り乱れての騒ぎが収まると、やにわにファウルをした選手に近づいて肘打ちを食らわせたのだった。つまり、そのビデオを撮ったカメラマンは、こういうときのクライファートはきっと相手を許さないだろうと知っていて、その動きをずっと追いかけていたのである。

 なんという想像力と忍耐力だろう。ぼくはこういう映像を日本のテレビではいまもなお目にしたことがない。

 かわりに聞かされるのは、アナウンサーの間の抜けた絶叫と解説者のおしゃべりだ。彼らはそれで試合の何を伝えようとしているのだろう。どんなに人為を加えても、試合はけっしてその試合以上のものにはならない。むしろ、人為を加えれば加えるほど、人為と現実の試合の乖離は大きくなっていくばかりだというのに。

 しかし、彼らは試合に想像力と忍耐力を注ぐことはせず、安易な人為を加えることばかり考えている。最近はそれがいっそうはなはだしくなっていると感じているのは、ぼくひとりではないだろう。

 6月6日には、史上最年少の15歳で男子プロゴルフツアーを制した石川遼が関東アマチュア選手権に出場した際、TBSテレビが同伴競技者に小型マイクを付けて石川の声を録音してくれと依頼したことがあきらかになった。ディレクターは、その同伴者競技者に謝礼を払うからともちかけたのだという。

 アマチュアゴルファーは、ゴルフをすることによっていかなる金品も受け取ってはならないことがゴルフ規則で定められており、受け取った場合はアマチュア資格が失われる。TBSのディレクターはそういう基本的なルールさえ知らずにゴルフの公式大会に行き、そうすれば面白かろうという判断だけで、いわば盗聴を工作しようとしたのである。

 このディレクターはゴルフとは関係のない番組のディレクターだったらしいが、去年11月の女子プロのミズノクラシックを中継したTBS系の毎日放送は、上田桃子がホールアウトしていたにもかかわらず、その8組後にスタートした宮里藍の追い上げに臨場感を持たせるために、上田も同時にプレーしているかのように画面を工作した。

 いずれも五十歩百歩で、盗聴工作をしたディレクターがスポーツ中継をすればそこで同じことをやるだろうし、画面工作をしたディレクターがべつの番組を作ればそこで同じことをやるだろう。それとも、彼らは悪ふざけばかりしているバラエティー番組のように、テレビなんてそんなものなのだからそのつもりで見てくれよとでも思っているのだろうか。

 こんなことを続けていたら、スポーツばかりでなく、いずれテレビそのものも死んでしまうということになぜ気づかないのだろう。

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