カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER

From:上海「アンバランスの魅力。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2007/05/01 00:00

From:上海「アンバランスの魅力。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

立ち並ぶ斬新なデザインの超高層ビル。

その陰ではいかがわしい呼び込み多数。

常識的でない存在感を持つ国の可能性。

 北京ダックを食べた後、足裏マッサージに行ってきた。かかと付近に大量にたまった角質も、綺麗に削ぎ落としてもらった。かれこれ2年ぶりになる。ソウルの明洞でやってもらって以来だ。カンポを歩けば角質もたまる。足裏にはたまにメンテナンスを施さなければならないのだ。

 ガイドブックで発見した「桃源郷」というそのお店に、赤のユニフォーム姿は一人しか確認できなかったが、浦和レッズサポーターとおぼしき人たちが数多く来店していたことは事実だった。

 本日、この街を訪れた浦和人は4千人以上とも言われている。

 そうなのである。僕はいま上海を訪れているのだ。アジアチャンピオンズリーグ、対上海申花戦を取材するために。

 それにしても上海はデカい。そして新しい。空港と街とをリニアモーターカーが結び、街を歩いていると、斬新なデザインの超高層ビルが、視界に四方から迫ってくる。宇宙的な匂いさえ漂う異次元空間といっていい。東京の比ではない。「東京ミッドタウン」など、小さい小さい。

 だがそのいっぽうで、一歩路地に入れば、雑多で猥雑な、庶民的な喧噪で溢れかえっている。人は多いし、食べ物は安いし、自転車は多いし。タンはぺーぺーと平気で吐くし。並ばないし。基本的に整列乗車の習慣がないのだ。

 そしてなにより驚いてしまうのは、呼び込みの多さである。僕が特別スキの多い人間に見えるわけでも、好色そうな人間に見えるってわけでもないはずだ。足裏マッサージを終えて、ホテルに戻るまでのそのわずか1キロ弱の間に「お兄さん〜」と、僕にいかがわしい声を掛けてきた奴は、男女あわせて軽く10人を超える。場所は「南京東路」という上海を代表するショッピングストリート。銀座のど真ん中のような場所で、このあり様とは、世界のスタンダードから大きく外れている。

 バランスは悪い。常識的ではけっしてない。あるいはそこに魅力の秘密があるのかもしれない。他に類を見ないという点で、上海は図抜けた存在だ。少なくとも欧州に、こんなサッカータウンはない。マンチェスター、リバプール、ロンドン、ミラノ、バルセロナ、マドリード、ミュンヘン、アムステルダム……。欧州チャンピオンズリーグの取材で訪れる街のスケールが、とても小さく見えてくる。ともすると面白味に欠ける街に見えてくる。

 これで、試合内容が素晴らしければ言うことなしなのだけれど。アジアと欧州のチャンピオンズリーグのレベルが、肩を並べる日は訪れるのか。

 中国に、可能性を感じるのは僕だけだろうか。この国、代表チームの成績はさっぱり振るわないが、クラブサッカーの人気は、凄まじいという。上海申花はチームが分裂中で、この日のスタンドも盛り上がりに欠けたが、本来はそうではないとのこと。Cリーグの熱さはJリーグの比ではないのだそうだ。地方対地方に対抗意識を燃やすことのできる、ある意味で欧州的な土壌を備えているらしい。

 先日、日本で知り合ったある中国人はこういった。

 「中国国内でのサッカー人気は凄いですよ。日本よりよっぽど生活の中に溶け込んでいます。熱くなりすぎて怪我人が出ることもしょっちゅうです。そして、世界のサッカーにも関心を持っています。もしかしたら日本人以上に。そのあたりに詳しい人はいっぱいいます」と。

 実際、ホテルの部屋でテレビをつけっぱなしにしていると、そのあたりの事情を垣間見ることができる。欧州サッカーの報道に費やす時間は、間違いなく日本より長いのだ。内容も遥かにキチンとしている。タレントが「凄い!」を、はしゃぐように連発する日本との間には大きな差がある。むしろ欧州にいる気にさせてくれる。そうした意味での、違和感は全くない。

 いつの日か、中国大陸がサッカーの本場になる日が訪れるような気がしてならないのだ。10年後、20年後の近い将来ではない。50年後、100年後の話になるだろう。僕の目で確かめることができない遠い話になると思うけれど、上海のいろんな意味でアンバランスな空間に身を委ねていると、この国はサッカー界でも、どでかいことをやらかすんじゃないかとの期待が膨らんでくる。欧州にも日本にもないエネルギーがこの国にはある。いつかどこかで、その片鱗だけは拝みたいモノだ。

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