MLB Column from USABACK NUMBER

ブーイングから解放された松井稼頭央。新天地での再出発。 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byThomas Anderson/AFLO

posted2006/06/26 00:00

ブーイングから解放された松井稼頭央。新天地での再出発。<Number Web> photograph by Thomas Anderson/AFLO

 6月9日、松井稼頭央がメッツからロッキーズに放出された。「解雇される」という噂を聞いて心配していただけに、「引き取るチームがあった」ことに一安心したが、ロッキーズはすぐに松井をマイナーに落としたため、松井にとっては「3Aからやり直し」という、厳しい再出発となった。ロッキーズGMダン・オダウドは、「松井の今後についてはひと月以内に決める」としているが、ファンとしては、一日も早いメジャー復帰を祈るほかない。

 以下に、メッツ入りしてから2年半の松井の打撃成績を、VORP(Value Over Replacement Player: 控え選手のレベルを超えてチームの得点に寄与した程度)という指標で示した(数字は6月18日現在、データはBaseball Prospectusによった)。

VORP (順位)
2004年 18.0 (出場1025選手中139位)
2005年 -1.0 (出場993選手中730位)
2006年 -7.9 (出場743選手中728位)

 と、最初のシーズンこそ上位15%以内と、まずまずの成績だったのに、その後大きく落ち込み、「控え選手のレベルを下回る」どころか、今季は下位3%以内と、大リーグでも最低レベルに落ちてしまったことがおわかりいただけるだろう。まだ30歳、老け込む年ではないが、問題は、松井の成績低下のどこまでが、メッツ・ファンから容赦ないブーイングを浴び続けたことによるプレッシャーから来たものか、である。

 松井が手厳しいブーイングを浴びてきたことについては以前にも書いたが、私は、松井の成績が振るわなかったことの原因のかなりの部分は、ブーイングされ続けた結果、「不振→ブーイング→プレッシャー→不振……」の悪循環に陥ってしまったことにあった、と考えている。今季メッツ入りした大ベテラン、フリオ・フランコも私と同意見で、「厳しいブーイングをしても逆効果、松井をのびのびプレーさせろ」とファンをたしなめたのだが、残念ながらメッツ・ファンの松井に対する「敵意」を解消するにはいたらなかった。冷え切った夫婦仲ではないが、トレード直前のメッツ・ファンの松井に対する態度は、まるで「顔を見るのもイヤ、早く消えろ」といわんばかりのものだったので、私は、正直言って、今回のトレードは松井にとって「めでたかった」と思っている。

 さて、ニューヨークの苛烈なブーイングから解放された松井が、新天地でのびのびと活躍できるかどうかだが、6月18日現在、ロッキーズ傘下3Aスカイ・ソックスでの成績は、22打数8安打(打率3割6分4厘)とまずまずのスタートを切っている。メジャーに昇格した場合は、遊撃に復帰する見込みだが、ロッキーズでの競争相手となるクリント・バーメス遊撃手は、今季VORP-14.6(出場743選手中742位)と、ここまで絶不調だった松井の成績をも下回る選手だけに、レギュラーの座を奪うことはそれほど難しくないのではないだろうか。

 現在、メッツはナ・リーグ東地区を独走、早くも優勝確実といわれている。一方、西地区は、5チームが2ゲーム差内にひしめく混戦が続き、ロッキーズにもプレーオフ進出のチャンスは十分にある。ファンとしては、「ロッキーズからプレーオフに出場した松井がメッツを痛い目に遭わせる」という、「スイート・リベンジ」を思い描きながら、その再起を応援したい。

松井稼頭央
コロラド・ロッキーズ

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