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おかわり君を開眼させた
1本のホームラン。
~松井秀喜もかつて通った道~ 

text by

鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

PROFILE

photograph byShigeki Yamamoto

posted2009/09/29 11:30

おかわり君を開眼させた1本のホームラン。~松井秀喜もかつて通った道~<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

中村は左足付け根の炎症から9月10日に復帰。その後もホームランを量産しており、2年連続の40本を達成、ホームランダービーのトップを走っている

内角に意識を置いて、外角を打つ──弱点を克服した中村。

「あのホームランで考え方が変わりました」

 中村が振り返ったのは7月22日のオリックス戦の8回、香月から放った右中間への31号本塁打だった。

 もともと内角に弱点があるといわれる中村にとって鋭いシュートを武器にする香月は、対応の難しい投手の一人だった。

「どうしてもシュートに意識がいくと外のスライダーに対応できないような気がする。でも、あれだけえげつないシュートを投げられると、内角を意識しないわけにはいかないんです」

 その日もシュートを意識しながら打席に立っていたが、来たのは外角へのスライダーだった。

「自然にバットが出て逆らわずにボールを右方向に打ち返せたんですよね」

 外角寄りの球でも強引に巻き込んで左方向へ打つ。むしろ甘い外寄りのボールの方が踏み込んで腕が目一杯伸びる分だけホームランにしやすい。外角は得意なコースだった。

 ただ、内角に意識を置かなければならない投手の場合は、意識が分散される分だけ外のボールへの踏み込みが甘くなってしまうのがジレンマだった。それを引っ張りにいくと、引っ掛けてゴロになるか、ラインドライブがかかってしまう。

 だが、香月から放った右方向への本塁打で意識は変わった。

「得意なコースっていうのは、意識しないでも打てる。自然にバットが出て、逆らわずにボールを打ち返せば本塁打になるということです。そういう意識で待てるようになったのが一つのポイントでした」

苦手投手の存在が打者を成長させる。

 香月のような投手のときには徹底的に内角に意識を置く。それで外角に来ても、得意なコースには体が自然に反応してバットも出るから対応できる。

「今は意識しないでも左肩が開かないでボールを拾えるようになっている。むしろ左投手の方が溜まって打てるぐらいだよ」

 松井もこう解説した。

 内角を徹底して待てる分だけ、中村も本塁打にできるコースの幅は広がった。

 香月という苦手の存在が、おかわり君をさらに成長させるきっかけとなったわけだ。

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