ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER

2006年 VSブルガリア 

text by

木ノ原久美

木ノ原久美Kumi Kinohara

PROFILE

photograph byNaoya Sanuki

posted2006/05/12 00:00

2006年 VSブルガリア<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 ワールドカップ(W杯)メンバー発表を5月15日に控えて、選手のアピールの場として残る試合はキリンカップの2試合のみ。国内組にとっては貴重な機会だ。

 その初戦である、キリンカップ第1戦の9日のブルガリア戦(大阪長居スタジアム)を前に、日本代表ジーコ監督は、「国内組の質が高くなれば自分も選考に迷う」と話し、選手の奮起を期待していた。

 そして結果は、監督の選考作業をかなり難しくさせることになったようだ。

 ロスタイムの失点で試合には2−1で敗れたが、内容は今季初めてと言っていい出来ではなかったか。攻めのリズム、多彩でスムースな展開、そしてなによりも意欲的で積極的なパフォーマンス。久しぶりに生き生きとした日本代表を見た気がする。唯一足りなかったのが、決定力だった。

 メンバー入りをかけて選手の必死の思いは、プレーの端々から伝わってきた。この日先発したFW玉田と、ケガの久保に代わって2トップの一角を担った巻、左サイドの村井、ボランチの阿部。特筆すべきは玉田と巻か。

 玉田は、怪我をする以前の切れが戻ってきたようだ。前線で積極的にボールを動かしてチャンスメークに絡み、彼の魅力である瞬間的なスピードで相手を抜く場面も見られた。「感覚を取り戻すという点で期待している」というジーコ監督の起用だったが、フィニッシュという点では、決定的得点機会に決めきれず、天を仰ぐシーンが続いた。

 その玉田を尻目に、貴重な同点ゴールを決めたのが巻だった。

 前半から精力的に動いて、この日同じく切れのよさを見せていた左サイドの村井から送り込まれる鋭いクロスに、前線へ飛び込んで合わせようと、体を張ったプレーで相手を嫌がらせる場面を作っていた。

 巻の代表デビューは昨年夏の東アジア選手権で、36キャップの玉田に比べると日本代表でのプレーは短い。

 だが、チームメイトの特徴をよくつかんでいて、予測よくポジションを取ってゴール前に顔を出す。それは彼のライバルたちにはない、彼のよさである。代表3ゴール目となるこの日の後半76分の1点も、そういう彼の鋭い嗅覚からくる泥臭さで呼び込んだものだった。

 「W杯メンバーの選考は、代表での功績、特に勝ち点3がかかった試合での実績を重視する」とジーコ監督は話している。

 指揮官が頭に描いている選手の序列では、2004年アジアカップ優勝に貢献した玉田の印象は強く、代表戦8戦目という巻はあまり高くないかもしれない。だが、その後者が点を決め、前者が決定機に外すばかりというこの日の試合は、監督を大いに悩ませることになったのではないか。

 玉田も、「課題はフィニッシュ。点を獲っていないから、監督の期待には応えていないと思う」と危機感を募らせている。

 東アジア選手権の韓国戦以来の先発でボランチを務めたMF阿部も、前半途中から臨機応変に前線近くまで上がってプレーして、時にはミドルシュートで相手ゴールを脅かし、チームに攻撃の組立てを促した。

 彼らだけでなく、メンバー入り“当確”と見られているMF小野のプレーからも、この試合に期する思いが伝わってきた。

 それは、怪我で戦列を離れている間にMF福西やMF小笠原にポジションを奪われ、なかなか上がらない自らのコンディションにじれったい思いをしていた元フェイエノールトMFの危機感の表れでもあった。後半途中出場すると試合の質と流れが変わり、結果としてチームの同点弾を呼び込んだ。

 この試合、もちろん、いいことばかりではない。

 失点した時間帯は立ち上がりとロスタイム。W杯でこういう場面を繰り返そうものなら致命傷だろう。しかも、ゴールに嫌われているかのように再三の決定機を外し続け、相変わらずの決定力不足という課題も改めてチームに突きつけた。

 だが、この日見せたような攻めのリズムや多彩さは、間違いなくチームを活気付け、いい流れを呼び込む。国内組のみの編成で、メンバー選考へのアピールという面を持ちながら、チームとしてこの時期にこういう試合ができたことは間違いなくプラスだ。

 「選手の実力はわかっているが、それに加えてみんな気合を入れてやってくれた。うれしい悲鳴だ」とジーコ監督は語り、こう続けた。「方向性は間違っていない。自分たちがやっていることを信じて、修復しながら臨んで行きたい」。

 メンバー発表までに残る1試合は13日のスコットランド戦(埼玉スタジアム)のみ。ブルガリア同様、屈強な相手に各選手がどういうプレーを見せるのか。ジーコ監督は楽しみに違いない。

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