MLB Column from WestBACK NUMBER

“ジャイロ”松坂の真実とは…… 松坂大輔 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byNaoya Sanuki

posted2007/03/07 00:00

“ジャイロ”松坂の真実とは…… 松坂大輔<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 凄いったらありゃあしない……。

 現在フロリダで春季キャンプを行っている、レッドソックス松坂大輔投手に対する過熱ぶりは、形容する適当な言葉が見つからないぐらい、凄いことになっている。

 2月下旬からフロリダを拠点にキャンプ取材を続けているのだが、取材の手助けをするため、3月2日に初めてレッドソックスのキャンプ地フォートマイヤーズを訪れ、記念すべき松坂投手のオープン戦初登板を見てきた。──いや、実際は球場に詰めかけたファンから松坂投手の印象などを集める作業に追われていて、じっくり投球をみるどころではなかったのだが──

 日本でも連日のように報じられているように、多くの日本メディアがフォートマイヤーズに集結し、松坂投手の枝葉末節に至るまでを報じようと必死の取材を続けている。とはいえこの光景はそれほど珍しいものではなく、イチロー選手や松井秀喜選手などがメジャー1年目だった時にも同様の騒々しさがあった。今回個人的に驚かされたのは、日本のメディアに負けないぐらい、アメリカのメディアが松坂投手に対して異様な盛り上がりをみせていることだ。レッドソックスの地元TV局が、大学との親善試合ながら松坂投手の初登板を急きょ生中継したのも然り。これまでの日本人スター選手たちに対してきたとき以上の反応を示しているようだ。

 確かに、昨年春のWBCで見せた快投、入札額を含め1億ドルを超えた入団総額のすさまじさ、さらに代理人スコット・ボラス氏の強硬姿勢で長引いた契約交渉等々、すべての要素がアメリカ人の中にも松坂投手の“カリスマ性”というか“ドラマ性”を高めていったのは間違いないだろう。そしてさらに松坂投手に “ミステリアス性”を付け加えたのが、現在アメリカメディアで話題沸騰中のジャイロボールの存在だ。

 ジャイロボールの詳細は省略するが、アメリカンフットボールのクォーターバックが投げるパスのように、横回転の加わったボールのことを言うらしい。現時点では理論だけが一人歩きして、実際にそのボールを投げる投手など存在していない(と思うが……)のだが、なぜかアメリカのメディアでは、松坂投手がその謎めいた新球種を投げていると、すっかり盛り上がっているのだ。キャンプインを前に行われた日米合同記者会見で、アメリカ人記者からジャイロボールについて質問された松坂投手が「その質問は来ると思っていました。投げられると言った方がいいのか、ボクのどのボールをもってジャイロボールといわれているのか、ボクにはまったく分かりません」と答えているように、この騒動に明らかに松坂投手も戸惑っているようだ。

 すでにアメリカでも多くの媒体が松坂投手の特集を組んでいるが、そこには必ずといっていいほどジャイロボールについての事細かな解説が付くのがお決まりになっている。自分が取材した初登板の時も、ファンが持ち込んだ応援プラカードに「gyroball」の文字が入ったものが目立った。

 アメリカのスポーツ専門誌のひとつ『スポーティング・ニュース』に掲載されていた松坂投手の特集記事は、ロッテのバレンタイン監督らの「そんな球種は存在しない」という証言を紹介する一方で、ジャイロボールの関係者から集めた「ジャイロボールは理論だけでなく、実際に投げることもできる」という証言も紹介。その証言者の1人から「マツザカは(ジャイロボールの)投げ方を知っているし、ずっと研究している。まだ完璧ではないが、十分に使えるほど精度を高めている」と発言させているのだ。ここまで来ると、多少滑稽にすら感じてしまうのは自分だけだろうか。

 いずれにせよ、これらの過熱とも思える報道によってアメリカでも松坂投手の注目度は計り知れないものになっている。大学チームを相手にした初登板の際も、立ち見でも入りきれないぐらいの超満員のファンが詰め掛け、地元の球団関係者は松坂人気の凄さに驚きを隠さなかった。

 これからも当面の間、松坂投手はこうした異常とも思える衆人環視の中で過ごさなければならない。アメリカでは松坂投手の虚像ばかりが先行しているが、じょじょに実像が明らかになっていくにつれて、ファンはどんな反応を示すのだろうか。ニューヨークに引けをとらないほど辛辣なメディアとファンを抱えるボストンだけに、前途は多難と言わざるを得ないだろう。まずは活躍を祈るだけだ。

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