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変化する日本シリーズ。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byHideki Sugiyama

posted2008/11/25 00:00

変化する日本シリーズ。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

 今年の日本シリーズは、ジャイアンツが第5戦に勝って3勝2敗にした時点で、勝負がついたと思った。ライオンズのエースの涌井を打ち崩しての勝利で、ライオンズにはもう頼りになる先発投手は残っていなかったからだ。

 だが、渡辺監督が第6戦で思いがけないことをしたことによって、様相がガラリと変わった。3対1とリードした4回、1死一・三塁というところで、先発の帆足に代えて、第4戦で完投した岸を中2日でリリーフに送り、そのまま5回3分の2を投げきらせたのである。

 そして第7戦。こんどは西口を先発させて0対2とされるや、3回から第3戦に先発した石井一、5回から第5戦に先発した涌井をリリーフに送って、8回にとうとう3対2と逆転してしまったのである。

 いずれも近年の日本シリーズでは絶えてなかった投手起用だった。われわれは、ここしばらく、日本シリーズでもペナントレースと同様の、先発、中継ぎ、抑えと、あらかじめ役割を決められた投手たちが、判で押したように型どおりの役割をはたす野球ばかりを見せられてきたのである。ジャイアンツの原監督の野球は、まさにその見本といってよかった。

 しかし、考えてみれば、20年前までは渡辺監督のやったことが日本シリーズではごく当たり前のことだったのである。エース級のピッチャーは、先発したほかにリリーフもしたのだ。渡辺監督自身がそうだった。彼は、かつてのライオンズの黄金時代に日本シリーズに10度出場して7勝を上げているが、登板した22試合のうち、先発は12試合で、10試合はリリーフで投げているのである。

 渡辺監督の成功によって、来年からは日本シリーズの投手起用はこれまでとはすこしちがうものになるかもしれない。もしそうなったら、ぼくは懐古趣味からではなく、とてもいいことだと思う。今年の第6戦と第7戦がそうだったように、日本シリーズがペナントレースとはまったくちがうおどろきに満ちたものになるにちがいないからである。

 また、今年の日本シリーズでは、ライオンズの片岡がシリーズ5盗塁の記録をつくった。5盗塁以上は、1955年のジャイアンツの岩本堯の6盗塁、78年のブレーブスの福本豊の5盗塁に次いで3人目だそうだが、これにもちょっとおどろいた。やった片岡に対してではなく、やられたジャイアンツに対してだ。

 日本シリーズのような短期決戦では、相手に足の速い選手がいる場合は、どのチームもバッテリーが走られないように特別の警戒をするから、どんなに足の速い選手でもそう簡単には盗塁できない。13度も日本シリーズに出場したジャイアンツの柴田勲ですら、たったの14回しか成功していないのだ(失敗は7度)。さらに追加データを挙げれば、最多盗塁死記録は11個で、記録保持者は8度出場の福本なのである(ただし、成功も14回で柴田と並んでいる)。

 いったい、ジャイアンツはシリーズ前にどんな対策を立てていたのだろう。とくに、2対1とリードしていた第7戦の8回に、無死一塁から決められた5個目の盗塁のときは、あまりにも無策だった。送りバントと決めつけていたのかもしれないが、1球も牽制せずに、初球に走られたのである。そして、これがジャイアンツの最終的な敗因となった。これをキッカケにして2点を失い、逆転されたのだから。

 しかし、終わってみれば、これも来年以降の日本シリーズのためにはよいことだったのかもしれない。投手の起用法と同様、こうした面にも細心の注意を払うようになれば、日本シリーズがさらに緊迫したものになるにちがいないからだ。ペナントレースと変わらない日本シリーズなど、ぼくは見たくない。

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