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佐藤ルミナ、無名選手にKO勝ち。
そこにあった2年半分の重み。 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2009/11/05 10:30

佐藤ルミナ、無名選手にKO勝ち。そこにあった2年半分の重み。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

「ダメなら辞めようとも思っていた」という佐藤は、コーリー・グラントにKO勝ちを収め、「もう少し続けられる自信がついた。残り少ない格闘技人生を見守ってください」とファンに語った

 声援、あるいは歓声――文字にしてしまえば単純だが、その質は様々だ。10月30日、JCBホールで開催された修斗のビッグマッチ『VALE TUDO JAPAN 09』でもそうだった。

 アレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラとの“ライト級新旧王者対決”を制した現王者・リオン武には、弾けるような歓声が送られた。

 トニー・ハービーの粘りに苦しみ、スタミナ切れを起こしたていた五味隆典の背中を押し判定勝利に導いたのは、声援に込められた熱にほかならない。

 そして、佐藤ルミナに送られた声援と歓声は、他のどの試合とも違っていた。湿り気を帯びていた、とでも言えばいいのだろうか。

 この日、彼が対戦したのはキャリア3戦(3勝)のコーリー・グラント。無名の選手であり、この試合の結果が世界のMMA戦線に与える影響は皆無と言っていい。試合内容にも大きな波はなかった。それでも、ルミナを見つめる者たちの視線と声は潤んだものになったのである。そうさせたのは、ルミナの“生き方”だった。

失墜したカリスマが通した“筋”。

 かつてNumberの表紙を飾ったこともある“修斗のカリスマ”は、グラップリングやシュートボクシングでの勝利こそあったものの、修斗のリングでは2年半も勝ち星から遠ざかっていた。その間の4試合は、すべてが一本かKOでの敗戦。デビュー以来、4度挑んだ世界タイトル戦はいずれも敗れている。冷静に見れば、今のルミナに残っているのは“昔の名前”だけだと言っていい。

 それでもファンが彼を支持するのは、デビューから15年間、ひたすら修斗の頂点だけを目指して闘ってきたからだ。PRIDEやHERO'Sが人気を集める中で、修斗の人気と求心力は相対的に低下していた。ネームバリューを活かしてメジャーイベントに出場するのは難しくなかったし、実際にそういう噂もあった。だが、彼が出場した総合格闘技の試合は修斗だけだった。理由はいたってシンプルだ。自分は修斗の選手であり、修斗のタイトルを目指している。その過程にいるのに、他の団体に上がる理由はない。

スター選手である以上に腹の据わった男、佐藤ルミナ。

 一方で2007年、王者・リオンからのリング上での“逆指名”によってタイトルマッチが決まりかけた時には、盛り上がる周囲を制するようにこう語っている。「いや、こういうことはランキング委員会で正式に決めてもらったほうがいい」。

 また、今回の試合は63kg契約で行なわれている。ライト級のリミットは65kg。彼は35歳にして、階級を下げてまでタイトルを狙おうとしているのだ。スター選手である以上に腹の据わった男、筋を通す男。こういう選手を、ファンが見捨てるはずがない。

 ましてルミナには、他の選手が絶対に真似することのできないスタイルがあった。ゴングが鳴った瞬間から攻撃一辺倒。関節を決めるか相手が失神するまで、駆け引き一切なしで前に出る。競技者としての筋を通しながら、その闘い方は競技の枠を大きく逸脱しているのだ。それゆえに逆転負けも多いのだが、観客の感情を揺さぶることにかけて彼以上の存在はいないだろう。

<次ページに続く>

► 【次ページ】  躊躇なきフィニッシュに見たルミナらしさ。

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