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森本貴幸を誤解していないか?
~ユーティリティFWとしての進化~ 

text by

弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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photograph byGetty Images

posted2009/09/17 11:30

森本貴幸を誤解していないか?~ユーティリティFWとしての進化~<Number Web> photograph by Getty Images

今季は2試合で2ゴール。セリエAでの4シーズン目、二桁得点以上の結果が期待される

 カターニャ・森本貴幸の右腕が何度も天を突いた。

 第3節の前半11分、ウディネーゼのペナルティ・エリア前正面。左サイドのマスカラから低いグラウンダーのパスがきた。ゴールを背に右足でからめて受けて左にターン、枠は見えた。相手の21番が突っ込んでくるが構わない。右足で思い切り打つ。

 森本のシュートは、相手DFドミッツィのカットで方向を変えつつもゴール左隅を捉えた。左太もも筋肉の違和感から復帰した森本はこの試合に先発し、先制ゴールを挙げた。右腕を突き上げ、開幕連敗スタートの重いムードにある周囲を鼓舞する。しかし試合は、守備の乱れから後半、立て続けに失点を重ね、2-4の逆転負けに終わった。試合後の森本の表情は悔しさにあふれ、「(自分のゴールを)喜べる心境じゃない。チームに集中力が足りない」と3連敗したチームに警鐘を鳴らした。

イタリアではその実力を確固たるものにしている森本。

 開幕戦からの2ゴールは決して美しい形ではなかったが、FWに何より重視されるのは結果である。昨季後半からコンスタントに得点し続ける森本に疑いの目を向けるイタリア・メディアはもはや少ない。“真に注目すべき日本人FW”としての評価が固まりつつある。

 とすれば、気になるのは、いつこのストライカーを日本代表で見ることができるのか、だろう。

 得点力不足が叫ばれた日本代表に森本待望論が高まっていた4月、いわゆる“招集拒否発言騒動”があった。これは、彼が出演した地元TV番組内のやり取りに端を発するもので、イタリア語での応答が飛躍したニュアンスになって日本へ伝わってしまった。残留争いの佳境にあった時点で、彼はチーム第一を強調したにすぎない。

 ようやく届いた日本代表オランダ遠征での初招集は、開幕戦後に発生した負傷によって幻と消えた。

日本代表のオランダ遠征用スパイクまで用意していた。

 森本と代表といえば、短期間でチームに順応できなかった北京五輪での苦い経験がある。今回の招集前日会見で、現在期する対応法を尋ねると「実際に代表に行ってみて、それを感じてみたい。その上で自分の持ち味を出したい」と気負うことなく意気込みを述べた。オランダ遠征用スパイクまで特別に用意していた森本に、代表に臨む意思がなかったはずがない。

 ガーナ戦の翌日、カターニャのマッサンヌンツィアータ練習場は季節外れの冷風に晒された。前半だけ出場した紅白戦で、負傷の癒えた彼は無言のまま、秘めた思いをぶつけるようにハットトリックを決めた。

【次ページ】 最下位のカターニャは戦術が定まらず不安定さを増す。

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