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ロナウジーニョ争奪戦。 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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posted2008/04/21 00:00

ロナウジーニョ争奪戦。<Number Web> photograph by AFLO

 4月13日、セリエA第33節。6位のウディネーゼと7位のサンプドリアがそれぞれ黒星を喫したことで、ミランは恐れていた順位後退をかろうじて免れた。現在、5位。4位のフィオレンティーナもインテルに敗れたため、4位までに与えられるチャンピオンズリーグ出場権獲得の道が再び開かれた。

 しかし、ホッと胸を撫で下ろしたミランに、インテルのモラッティ会長が攻撃を仕掛けるという事態が起こった。同会長は、ミランが獲得交渉中のFWロナウジーニョに対して、ミランのオファーを上回る2500万ユーロ(約40億円)の移籍金をバルセロナへ支払う用意があると公表。「ミランが小細工を使おうが、インテルはロナウジーニョを獲得するために最善を尽くす」と悠然と言った。

 「最悪の相手」による宣戦布告は、4位争奪戦で神経を尖らせているミランを失意のどん底に陥れた。聞き捨てならないモラッティ発言に、ミランの幹部はロナウジーニョの代理人でもある実兄アシスと同盟を結び、サッカー界の「褐色のダイアモンド」獲りを急速に進める決意を固めた。

 インテルがロナウジーニョ獲得に乗り出した理由は、ミランへの嫌がらせ以外思い浮かばないが、ミランがロナウジーニョを欲しい理由はよくわかる。

 「トレカンテ(司令塔とストライカーを兼ねる選手を指す造語)」であるロナウジーニョは、ミランが好む、前線をサイドに張らせ、高い位置から相手にプレッシャーを掛ける攻撃に不可欠だ。今季、成績不振の最大の要因にあげられるピルロ、セードルフの不調、いわゆる「中盤の負の一面」と、FW不足を同時にクリアできる。過去4シーズン、スター選手の獲得を怠ったミランだけに、超一流選手を迎えればサポーターへの感謝の気持ちにもなる。さらに、ロナウジーニョのパフォーマンスは、仮にCLに出場できなかったとしても、(ロナウジーニョさえ納得すれば)その埋め合わせにも好都合。ロナウジーニョが戦力に加われば、「リーグ完全V宣言」にも信憑性を帯びてくる。

 ところが、ロナウジーニョのミラン入りには不安要素も存在する。その一つがセリエAにおけるスペインリーグ出身者の不調である。MFグアルディオラ、MFメンディエタ、ミランに限ってはFWリバウド、MFレドンド、FWオリベイラ、MFエメルソンなど、過去にイベリア半島からの来客が真価を発揮した形跡は無に等しい。セリエAのように出場停止、ケガ人で戦力を欠くことが多いリーグで、好きなポジションでプレーできないという逆境のなか、課せられた任務を全うすることを要求される。インテルのMFカンビアッソこそ異例だが、かつてリーガ出身者はそれに対応できず、その能力を錆付かせてしまった。

 ロナウジーニョは28歳。そして天才プレーヤーだ。近年のイタリアンサッカー最高の頭脳とされるアンチェロッティ監督のリアリズムに満ちた世界でも、本来のパフォーマンスを発揮する可能性は十分にある。幹部には、ロナウジーニョだからセリエAでも実績を残せるという目算もある。

 インテルの横槍を恐れたミランが、ロナウジーニョを断念してジェノアのFWボリエッロやカリアリの若手MFアクアフレスカへ触手しはじめたという報道もあるが、私は「並」の選手の安い買い物が仇となることを懸念する。いまミランが手にするべきモノは、いくら金を払っても褐色のダイアモンドなのだ。

ロナウジーニョ

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