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シーズン中盤、問われるGMの手腕 

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菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byREUTERS/AFLO

posted2008/07/16 00:00

シーズン中盤、問われるGMの手腕<Number Web> photograph by REUTERS/AFLO

 現在、松井稼頭央選手の取材をするためワシントンDCの「ナショナルズ・パーク」に来ている。そして今日(7月13日)、なかなかお洒落な新球場でシーズン前半戦終了を迎えている。

 シーズン開幕直後に、レイズの躍進を期待するコラムを書いたが、さすがに前半戦の快進撃は予想を上回るものだった。今や彼らの実力を疑うものは誰もいないだろうが、本当の意味で真価が問われるのはプレーオフ争いが熾烈になる後半戦だろう。そこで現在のような強さ(前半戦終盤で6連敗を喫しているが……)を発揮できれば、選手たち、チームが着実に自信をつけていくはずだ。

 それとは裏腹に、前半戦もっとも取材に回る機会が多かったアストロズは、4月下旬の松井選手の戦列復帰を機に快進撃を続けていたが、不安視されていた投手陣が脆さを露呈してしまい、下位に低迷している。攻撃陣の潜在能力は他の強豪チームに匹敵するだけに、何とか投手陣を立て直して後半戦の巻き返しを期待したいところだ。

 さて、後半戦の戦い方を見据えなければならないこの時期は、各チームのGMの手腕が問われるというか、腕の見せ所になってくる。これから活発になってくるトレードでどんな補強ができるかが、チームの浮沈のカギを握っているからだ。

 そんな中、早くも補強に動いた2チームがある。インディアンズからサバシア投手をトレードしたブルワーズと、アスレチックスからハーデン投手を獲得したカブスだ。同地区で首位争いを演じている両チームは堅実に先発陣の層を厚くしたことで、後半戦はおろか短期決戦のプレーオフで必要不可欠な強力な先発3本柱を手にするに至った。

 その一方で、昨年の地区覇者インディアンズは、サバシア投手を失った戦力ダウンだけに留まらず、残った選手の士気をも低下させてしまった。確かに契約延長に合意しなかったサバシア投手がシーズン終了後にFA移籍するのは既定路線だったとはいえ、こんなに早く放出したのは大きなリスクだったと思う。前半戦は不振が続いていたとはいえ、私が取材に回った時もウェッジ監督は、毎日のように巻き返しに意欲的な発言を繰り返していた。しかし今回サバシア投手との交換で獲得したのはマイナー4選手。現場の人間たちにしてみれば、「うちのGMはすでに来シーズン以降に気持ちが向いている」と勘ぐりたくなるのは当然だろう。当然後半戦を戦う選手たちの士気は削がれてしまうだろう。

 今回のインディアンズに限らず、タイガースなどの前半戦に予想外の苦戦を強いられたチームにとっては、今後のトレードの方向性を間違えてしまうと悲惨な後半戦を送る危険性をも孕んでいる。

 さらに単純に戦力補強を狙うチームにとっても、トレード補強が思わぬ落とし穴になってしまう場合もあるから難しい。あるエピソードを紹介しよう。

 1997年のメッツは、前年途中から指揮を執ったバレンタイン監督の下、5月から徐々に調子を上げていき7月終盤に地区2位につけるなど、ワイルドカード争いを続けていた。その当時柏田貴史投手が所属していたこともありメッツの取材に回る機会が多く、現場で予想外のメッツの躍進にファンとともに盛り上がっていたのを憶えている。

 そしてシーズン途中にアシスタントGMから昇格したスティーブ・フィリップ氏(当時)が、後半戦を見据え、カブスとの間に3対1のトレードをまとめた。トレード発表当初は、実績のある2人のベテラン中継ぎ投手を獲得したため、不安材料だった中継ぎ陣を改善させたとして、地元メディアも一斉にトレードを評価する報道に包まれていた。

 ところがいざ蓋を開けてみると、このトレードは大失敗だった。肝心の2投手がまったく活躍できなかったのだ。徐々にメッツ・ファンの辛辣なヤジを浴びるようになり、1人は「ニューヨークで投げるのが怖い」と言い出す始末。さらにチームの盛り上げ役だった外野手を放出してしまったため、負けが混み始めたため悪化していったチームの雰囲気を変えることもできなかった。結局メッツは8月下旬にはワイルドカード争いから撤退してしまった。

 後半戦が始まると同時に、GMの活動はさらに活発になってくる。彼らが手がけるトレードが、それぞれのチームにどんな影響を及ぼすのか──。グラウンド上の戦いだけでなく、GMたちの攻防にも目を光らせながら後半戦を楽しんでほしい。

タンパベイ・レイズ
ヒューストン・アストロズ
クリーブランド・インディアンス
ニューヨーク・メッツ

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