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キッシンジャーの「異常な愛情」は、
FIFAの底知れぬ闇を照らすか? 

text by

田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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photograph byKYODO

posted2011/07/08 10:30

キッシンジャーの「異常な愛情」は、FIFAの底知れぬ闇を照らすか?<Number Web> photograph by KYODO

政界入りする前は、ハーバード大学で国際政治学の教鞭をとっていた“ドクター・キッシンジャー”。当時、そこで学んだ者の中には中曽根康弘元首相もいた。日本と中国、そしてアジア諸国にとっても非常に重要な役割を果たし、今でもその影響力は世界的にみても最大級である

特別委員会設立の実現可能性には疑問符が……。

 残念ながら、ブラッター発言の後、キッシンジャーについての続報は届いていない。BBCのラジオ番組にキッシンジャーが出演した際には「もし(委員会の設立が)役に立つのであれば、加わるのにやぶさかではない」と色気をのぞかせていたが、特に発表もないところをみると構想そのものが立ち消えになってしまうのかもしれない。

 そもそもFIFAの組織改革なるものが、実現するかどうかもはなはだ怪しいものだ。ハマム氏の一件後もFIFAの火種はくすぶり続けているし、2018年のW杯招致活動で辛酸をなめたイギリスのメディアは、改革案など絵に描いた餅だと端から相手にしていない。

 針の筵に座らされた為政者が、◎◎委員会や△△会議といった組織を粗製濫造して延命を図る傾向にあることは洋の東西を問わないのだろう。

 FIFAのキッシンジャーが誕生するか否かはさておき、今回の一件がサッカー界の底知れぬ奥の深さを改めて教えてくれるモデルケースとなった。

サッカー界の雲上人が繰り広げる政治闘争は世界一熾烈である。

 世界のサッカー界ではキッシンジャーのような人物、よく言えばカリスマ、悪く言えば怪人たちが跳梁跋扈している。

 クラブサッカーや報道の世界に目を転じても、ACミランのベルルスコーニ元会長やメディア王のルパート・マードック、さらにはQPRの大株主に収まったバーニー・エクレストンや、チェルシーのオーナーで1兆円を超える資産を持つアブラモビッチが労働者階級に見えると評されるほどの富を持つマンチェスター・シティのオーナー等々、この手の人物の例は枚挙にいとまがない。

 彼らが手にしている莫大な富と絶大な権力、互いに張り巡らせたネットワークの緻密さは想像を絶するレベルだ(これに比べれば、週給換算で1千万以上を稼ぎ出すスター選手などかわいいものである。マンチェスター・シティのオーナーと同様に、スポーツ界に進出しているアラブの王族には、ボーイング747を自家用機代わりに使っている人物さえいる)。

 たしかに、確固たる地位と名声を築きながらも、金銭にはまるで無頓着で、権力に固執するどころかとことん公平無私を貫こうとするオシムのような人物もいないではない。

 だが悲しいかな、上層部に行けば行くほど、その手の人物に出会うケースは少なくなる。あまりにも政治的すぎると眉をひそめるなかれ。世界最大の人気と競技人口を誇るスポーツであるが故に、内幕で繰り広げられる政治劇も世界一熾烈を極めるのである。

【次ページ】 日本は世界のサッカー界の現実をもっと直視すべき。

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