カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER

From:ミラノ「的中。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2007/02/27 00:00

From:ミラノ「的中。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

チャンピオンズリーグの予想が的中しているときでも、

悩みごとがたくさんある。地球温暖化にユーロ高。

セカンドレグの取材地はどこにしようかなとか。

 PSVのホーム、フィリップス・スタジアムには暖房設備がある。この時期に行われる試合では、スタンドの屋根に設置されたヒーターによって、客席は暖められる仕組みになっている。だが、対アーセナル戦では、最後まで自慢の暖房は作動しなかった。その必要がなかったからだ。僕の上着はストーンアイランドの厚手のニットのセーターで、厳冬服を着込んでいなかったにもかかわらず、寒さは一切感じなかった。アーセナルのお寒いサッカーは目立ったものの……。

 翌日、スキポール国際空港を飛び立った飛行機の窓越しには、眼下の景色が暖かい陽射しに映えるように映った。オランダは海抜0m以下の低地が、国土の4分の1を占めている。地球の温暖化が進めば、海抜は自ずと上がる。国土は水没の危機にさらされる。この景色を眺めるたびに、湿地帯の面積が、徐々に広がっているように見えるのは気のせいか。

 でも僕は、地球の温暖化を、心底心配することができずにいる。多分そうなのだろう。そうこうしているうちに、心地よい睡魔に襲われてしまったからだ。それから約2時間後、飛行機は無事着陸に成功した。チャンピオンズリーグの決勝トーナメント1回戦。2日目の水曜日に、僕はいったいどの街を訪れたでしょうか。(1)バルセロナ(2)ミラノ(3)ローマ(4)ポルト。

 試合会場の選択に、僕は常に頭を悩ませている。(1)も有力な候補だった。バルセロナはリバプールに苦戦する。少なくとも接戦、好勝負になると予想していたからだ(チャンピオンズリーグの真髄参照)。だが、僕は実際に、波乱が起きた現場にはいなかった。別の会場で、その結果を耳にしながら、密かに一人悦に入っていた。同時に、もう一つの予想が的中したことを、これまた密かに喜びながら。

 シーズンを迎えたばかりの頃から、僕はバレンシアをダークホースに推していた。この試合の直前にも、セリエAで16連勝中のインテルより「買う」ならバレンシアだと言っていた(チャンピオンズリーグの真髄参照)。ファーストレグの結果は2−2。アウェーで2ゴールをマークしたバレンシアの優位は、動かないものになった。というわけで正解は(2)。ミラノでした。

 空港到着は2時。バスで中央駅に到着したのは3時半。試合開始時間まで少し間があったので、僕はさっそく街に繰り出した。中央駅から3番線の地下鉄に乗り、3つ目の停車駅であるモンテナポレオーネで下車。まず、ブランド品のお店が軒を連ねるショッピングストリートをぶらつくことにした。

 やっぱりね、ミラノは最高。気がつけばそんな独り言を口にしていた。お買い物好きの僕を、ミラノほどウキウキさせてくれる街も珍しい。僕の地元である裏原宿界隈とは、歩いている人の恰好が基本的に違う。見るからにイカした人が多いのだ。すると、なぜか僕までイカした奴になったような錯覚に陥る。お許しください。あくまでも錯覚なのだから。

 という僕にも行きつけのお店がある。サンバビラ広場からほど近い場所にある、ストーンアイランド&CPカンパニーのお店だ。店員のお兄さんは僕を見るなり「おお久しぶり」といって、握手を求めてきた。悪くない気分は募る。その結果4点もお買い上げするハメに。ユーロ高だというのに、つい財布の紐は緩むハメに。それでも日本で買うよりずいぶん安いと、自分自身を納得させながら。

 それはそうとストーンアイランドは、サッカーファンの間でとりわけ人気のブランドだ。特にイングランドで、その傾向が強い。スタジアムへ出かけるときの定番スタイルといっても言い過ぎではないほどだ。僕がイングランドでそれを着て歩いていると、それどこで買った、いくらだったと問い詰めてくる失礼な野郎も少なくない。これは本当の話だ。

 で、彼らも、アウェー戦などでミラノを訪れれば、必ずやこの店を訪れる。目つきの悪いフーリガン風で、溢れかえることになる。だが、店員のお兄さんによれば、最近ではロシア人の間でも人気なのだそうだ。アブラモビッチみたいなお金持ち風のサッカーファンが、買いあさっていくこともしばしばだという。ロシア人、恐るべし、である。サッカーも、近い将来きっと強くなるに違いない。代表監督もヒディンクなわけで。

 それはともかく店員のお兄さんは、インテリスタだ。バレンシアをそれなりに強い相手だと認めてはいたが「今シーズンのインテルは特別。いつになく強いチームだ」といって胸を張った。君はどう思うんだ、ジャーナリストとしてと訊ねてきたので、僕はきっぱりこう答えた。

 「50対50。バレンシアもそれなりに強いから、注意した方が良いよ」。

 結果はその通りになった。翌日のガゼッタ紙は、ダビド・ビジャに7.5、シルバに7の評価を下した。インテルにいそうでいない選手。それがビジャでありシルバだ。知名度の高い選手を揃えているが、いまが旬な選手は見あたらない。

 僕が現在抱えている悩みは、セカンドレグの訪問先だ。リバプールかバレンシア。ミラノかロンドンか。中村俊輔を観戦するなら、2週間後、再びミラノを訪れることになる。となれば、再びこのお店に足を運ぶことになる。嬉しいような嬉しくないような。ユーロがもう少し安ければ……。とはいえ、イングランドのポンドはそれ以上に高いわけで……。そして地球の温暖化は進む。困った世の中になったものだ。

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