Column from Holland & BelgiumBACK NUMBER

カルーはワールドユースに間に合うか? 

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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posted2005/05/09 00:00

カルーはワールドユースに間に合うか?<Number Web> photograph by AFLO

 今年6月に開催されるワールドユースで、日本はオランダと同組になった。そのオランダの秘密兵器と言われているのが、フェイエノールト所属のサロモン・カルーだ。カルーはコートジボワールの出身だが、オランダ代表でのプレーを望んでおり、帰化申請をしている最中だ。

 元フランス代表のギルーがコートジボワールに設立したアカデミーで、カルーはエリート教育を受けた。多くの選手はギルーがテクニカル・ディレクターを務めるベベーレン(ベルギー)に移籍していったが、カルーはフェイエノールトにいた兄のアドバイスを受けてオランダにやってきた(兄は現在フランスのオゼールでプレー)。狭いスペースでもクネクネと抜くドリブルは独特のリズムがあり、もし帰化が実現すれば日本にとってとてつもなく怖い存在になる。

 しかし、カルーの帰化申請が、ここにきて議論を巻き起こしている。

 オランダ・サッカー協会は地元開催のワールドユースのために、この19歳の帰化を全面的にバックアップしている。もし、カルーがユース代表に加わってくれれば、これほど力強いものはない。A代表のファンバステン監督もカルーを高く評価しており、何度も視察に訪れているほどだ。カルーはコートジボワールからの召集を断り続けており、あとは移民局からの通知を待つだけ―――のはずだった。

 その動きに待ったをかけたのが、オランダの移民局のリタ・ヴェルドンク大臣だ。

 かつて移民に寛容な政策をとってきたオランダだが、EU統合後は移民に対して厳しい処置を取るようになっている(右翼勢力も増しつつある)。そんな中で、サッカーにはあまり興味のない女性大臣が、カルーの帰化を簡単に認めるわけがなかった。ヴェルドンク大臣は言う。

 「通常なら、帰化には最低でも5年の月日が必要。私はカルー選手の帰化申請に力を貸すつもりはない」

 カルーがオランダでプレーしてから、まだ約2年しか経っていない・・・・・・大臣の言うことにも一理ある。これに対して、オランダ・サッカー協会はすぐに応じた。ファンバステン監督が公式に反論したのである。

 「カルーは、来年のW杯でオランダの秘密兵器になる選手だ。彼を代表に入れて、オランダがW杯でいい結果を出せば、それが国益にもつながるはずだ」

 カルー本人も「僕は政治家ではなく、サッカー選手だから、これ以上は何もいえない。でも、当局の他の人物は、申請に対してとてもポジティブだ」とコメントした。

 カルーが、コートジボワール代表を避けるのには、大きな理由がある。

 カルーの兄ボナベントレ・カルーは、コートジボワール代表でプレーしている。その兄が2000年のアフリカ選手権に出場したときのことだ。コートジボワールは予選リーグで敗退してしまい、それに激怒したゲイ将軍(当時)がチームを3日間、基地に監禁してしまったのだ。現在もコートジボワールでは、政府と反政府の争いが続いている。兄の監禁を目の当たりにしては、弟のサロモンが国のためにプレーしたいと思うはずがなかった。

 大臣がコメントした4日後―――やはり国民的スターのファンバステンが圧力をかけたことは大きかった。大臣のもとには抗議が殺到し、大臣が発言を撤回して、「カルーは特例として検討したい」と発表したのである。

 すでにコートジボワール・サッカー協会のアノウマ会長は「彼を説得するのは諦めた」と発言しており、カルーの将来はオランダの移民局に委ねられている。

 カルー弟は難民ではないが、サッカーという視点に立てば、ある意味“代表難民”である。日本戦で活躍されるのはちょっと困るが、オレンジのユニフォームを着て6月のワールドユースのピッチに立っていることを願いたい。

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