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スナイデル、悩みからの脱出。 

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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posted2004/10/22 00:00

スナイデル、悩みからの脱出。<Number Web> photograph by AFLO

 今季のスナイデルは、どうもおかしい。プレーを見ていると、とにかくイライラしているのである。

 9月のチャンピオンズリーグのユベントス戦ではネドベドに両足タックルをかまして負傷退場させ、バイエルン戦ではフリングスの背後からトペスイシーダのような体当たりをした。極めつけは開幕前のオランダ・スーパーカップで、ゴールを挙げた後にアヤックスのクーマン監督に中指を立てて「ファック・ユー」と叫んだことだ。先発を外されたからといっても、これはやり過ぎだ。

 同僚のファンデルファールトが「ウェズリー(スナイデル)はクールな奴だけど、実はかなり生意気でもあるんだ」と自伝に書いているように、スナイデルは気が強いことで有名だ。それでも、「気の強さをマナーよく発揮するのがウェズリー」とファンデルファールトが言うように、今までは優等生の体裁を崩すことはなかった。

 それが今季は、監督を批判したり、悪質なファウルをしたり、とても優等生とは言えない振る舞いを続けているのである。その原因はきっと、スナイデルが選手として大きな壁にぶつかっていることに関係あるだろう。それゆえに大きなストレスを感じているのだ。

 その兆候が顕著になったのは、バイエルン戦だった。この試合で、スナイデルは1対1の競り合いに、ことごとく勝てなかった。スナイデルの身長は公称170cm、推定165cm。オランダの一般人に混じっても、かなり低い方である。オランダのメディアは「中盤の底をやるには、スナイデルは背が低過ぎる」と批判した。そんなことは、スナイデル本人も痛いほどわかっているに違いない。スナイデルは言った。

 「新聞を全て読むわけではないが、批判が頭から離れなくなった。寝る前に考え込む日々が続いてしまった」

 この苦境を抜け出すきっかけを与えてくれたのが、オランダ代表のファンバステン監督だった。

 10月上旬の代表合宿で、ファンバステンはスナイデルを呼び出し、「私にとってオマエは理想のセントラルMF(中盤の底)だ」と言い聞かせ、とにかく話し会いの場を多く持つようにした。そして何よりスナイデルにとって有効だったのは、ファンバステンの指示で、いつもより10m前でプレーするようにしたことだ。その分、最終ラインに負担がかかるが、スナイデルは持ち前の攻撃力を発揮できるようになる。W杯予選のフィンランド戦では見事に同点ゴールを決め、オランダが3対1で逆転する原動力となったのだった。試合後に、スナイデルはいつものように無表情で淡々と語った。

 「確かに自分は背が低いし、体も強くはない。でも100kgあっても、レギュラーになれないのがサッカーだ。自分の抱えている問題は、サッカーなら解決できるんだ」

 スナイデルは、今季始めから続いていた悪い波を、ぎりぎりの所で乗り切ったと言っていい。

 コンプレックスは、ときに人を成長させる巨大な起爆剤になる。20歳のMFは、低身長というデメリットを背負いながら、クールで生意気に成長を続けるに違いない。

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