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最下位はもうイヤだ 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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posted2009/02/09 00:00

最下位はもうイヤだ<Number Web> photograph by AFLO

 鬼門を突破した瞬間、赤い軍団が粉雪のちらつくトリノの夜空へ雄たけびを上げた。

 1月31日のセリエA第22節。カリアリは後半33分、助っ人MFマトリの一撃で勝ち越し、41年ぶりに苦手とするユベントスを敵地で破った。勝者の中には一流選手はいない。代表クラスのジョカトーレも一人しかいない。それでも、その日のカリアリの存在感は抜群だった。

 ユベントスも出来は悪くなかった。ゲームの支配者として巧みな足技で再三好機を生み出し、2-1でリードしていた。「所詮、相手は二流」。カリアリはユベントスのそんな油断を突く。最後までゲームを捨てないのがカリアリの真骨頂。スピードをいかしたカウンター攻撃はユベントスの息の根を止めるのに十分だった。

 かつての天敵を前にカリアリが不屈の闘志で不可能を可能にした一方、予想もしない驚きの結末でユベントスは3位に後退。大きな痛手を被りながらもゼブラたちは素直に勝者を称えた。「縦のパスが効果的だった」と接戦を振り返ったのは殊勲のMFコンティ。アレグリ監督も「相手が苦戦している瞬間をいかした。完璧な戦意」と自画自賛した。

 ユベントス戦では会心の勝利を飾り、話題を呼んだカリアリではあるが、ここまでの道のりは正にイバラの道だった。今季は開幕から5連敗と不調な滑り出しに自信をなくしていたイレブンが、死の淵から生還するべく結束した。

「最下位はもうイヤだ」

 指揮官の運動量にこだわる姿勢を重んじて、選手たちは体力面を強化する。それによって、乏しいとされた戦力は徐々にパワーを増していった。若いチームとはいえ勢いだけでは決して勝てない。才能だけでコトを成し遂げる能力は今のカリアリにはない。そこでアレグリ監督は技術・経験面で劣るのであれば、唯一、相手と等しい要素である「タイミング」に賭けた。これが原動力になった。さらに、「二流」と相手に馬鹿にされても、試合に勝つという信念を決して曲げないことで転機が訪れる。第6節以降17試合での成績は10勝3敗4引き分け。34ポイントで首位のインテル(40)、2位のミラン(35)に続き堂々3位。独特なゲームメークでカリアリは「敵なし」を印象づけたのだった。

 最下位の屈辱を晴らし6位に浮上した赤い軍団に、さらなる吉報が飛び込んだ。

 一つは、快進撃によってイレブンのバリューが急騰したこと。ユベントス叩き上げの主役であったMFマトリは開幕時期に比べると4倍に、MFコッスに至っては12倍にも膨れ上がり、5カ月間で主力選手たちのバリューは55%アップの総額6000万ユーロに吊り上がった。抱える選手の大半が共同保有と弱みもあるが、幹部は大喜び。短期間でバリューをこれほどまでに倍増させたチームは過去にない。

 二つ目は、平均年齢25歳の主力11人のうち9人がイタリア人であり、代表としてもブレイクする兆しも見えること。国産タレントが品薄である状況の下、「カルチョ」の口に相応しく有能な若手を台頭するカリアリにイタリアンサッカーの復活を垣間見る。最近はことさら外国人選手に興味が集まるが、今季のカリアリは、イタリア人に欠いていた正確な状況判断力の強化に注力し「国産」教育を施している。その努力がようやく実ったのか、ゲームの最後まで足に力がある選手が多い。

 「最下位」という逆境を跳ね返してカリアリは突き進む。ここぞ、というタイミングでスペースに飛び込むファンタスティックなサッカーでセリエAの主役に躍り出る日はそう遠くはないだろう。

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