佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

Tカー 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

posted2007/07/11 00:00

Tカー<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)

 こんなに困惑した佐藤琢磨を見るのはいつ以来だろう。目を細めて遠くを見るようにして「ウ〜ン……」と言いながら、何度も首を傾ける。

 「正直言って、なんでこんなにペースが上がらないか分からない。根本的にスピード不足でマシン全体にグリップがなく、コーナーで滑る」というのが困惑の理由である。そうして困ったことに、マシンのパフォーマンス不足の原因が分からないのである。

 しかも「チームの2台が揃って同じなら納得も行くけれど、ボクとアンソニー(デイビッドソン)の差が大き過ぎる。フツーじゃない」というから、原因が複合的なものである可能性も高まって来た。

 イギリス・グランプリのためにシルバーストン入りした佐藤琢磨は、苦戦を覚悟していたフシがある。1週間前のマニ-クールで入れた新しい空力パーツであるアンダーフロア効果が不発。その対策はたった数日ではできないし、しかも多くのチームが参加した2週間前の“御当地”シルバーストン・テストにスーパーアグリは参加していないのだ。シルバーストン・テストの時期、バージョンアップ・マシンをテストするホンダに帯同してスペインのヘレスでテスト・ランしたからである。

 それでも初日は悪くなかった。琢磨はレースタイヤを決めるロングラン、チームメイトのデイビッドソンは予選での一発の速さを求めるパフォーマンス・ラン担当と別メニューで走行。金曜日の午後にはデイビッドソンが10位、琢磨は16位。土曜日午前中の最後の試走でもデイビッドソンは10位のタイムを出している。あとは二人のデータを持ち寄ってマシンを最終調整すればよい。

 ところが、いざ予選になってみると佐藤琢磨は21位。デイビッドソンもアタックを完全に失敗したが、それでも琢磨より0.5秒以上速い19位。事ここに至っては琢磨車になんらかの検知できない欠陥があるとしか思えず、チームは琢磨のレースカーをTカー(スペアカー)にスイッチすることを決断した。イギリス・グランプリに多くは望めないが、イギリスGP以降のレースに向けてプログラムを推し進めるにはそれしかない。Tカーへの交換はルール上予選グリッド抹消。ピットレーン・スタートしか選べず、しかもインスタレーション(チェック)ランもできない、出たとこ勝負である。

 結果はトップから2周遅れの完走14位。走り終えた琢磨は「ボクのレースカーとTカーは個体差が大きく、最初のスティントはアンダーステアが強かった」と言った。

 トップチームはテストなどでレースカーを使ったり、Tカーを使ったりしてマシン間の個体差をつぶしてしまっている。だから急遽Tカー出動となっても、レースカーとそれほど違わないセッティングを施せる。しかし、新興スーパーアグリにはそこまでの余裕はなかった。

 マニ-クール、シルバーストンと、佐藤琢磨のレースは次への“捨石”のようなものだった。十分に戦えたとはとうてい思えない。2週間後のヨーロッパ・グランプリ(ニュルブルクリンク)では、すべてをリフレッシュした佐藤琢磨を見たいものだ。今週水曜日から、スーパーアグリは新装なったスパ-フランコルシャン(ベルギー)の合同テストに参加する。ニュルブルクリンクに向けて、確かな手応えをつかんで欲しい。

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