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“3年生の意地”が逆転を呼ぶ!
智弁和歌山・高嶋監督の名采配。 

text by

氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2009/08/19 12:50

“3年生の意地”が逆転を呼ぶ!智弁和歌山・高嶋監督の名采配。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

 単なる数字の積み重ねだけではないということが、その采配で見てとれる。

 智弁和歌山・高嶋仁監督のことである。

 大会第9日(18日)の第3試合で智弁和歌山は札幌第一に逆転勝ちした。高嶋仁監督は元PL学園監督の中村順司氏が持つ監督通算勝利数1位に並んだわけだが、その功績は数字や記録で説明できるものではない。

 3点ビハインドの7回表、高嶋監督は策に出る。県大会から起用し続けていた選手を外し、2桁番号をつけていた選手を次々に投入。そして、これが見事に当たる。起用された選手はすべて3年生だった。高嶋監督はその意図をこう説明する。

「3年生の意地に賭けてみようと思ったんです。1桁の子らがね、スイングもできていなかったもんやから、この大会で最後という3年生の意地、それに賭けた。ようつないでくれました」

劣勢になったときこそ、技術ではなく気持ちに勝る3年生。

 劣勢になったときこそ、技術ではなく気持ち。そこに逆転勝ちへの光明が見いだせると、高嶋監督は過去の経験からそうした起用をしてきた。

 主将ながらに背番号「14」の左向勇登はいう。左向は7回表、1点差に迫る適時打を放っている。

「準備はいつもしていました。呼ばれたときは『よしきた!』と、意地でも打ってやろうと。ベンチの3年生はみんなそう思っていますよ。そういう気持ちがあるのを、高嶋先生は知っているんだと思います」

 9回表に同点タイムリーを放った喜多健志郎も同意見だ。「監督が僕らの意地を感じてくれているというのなら、それは3年生にとっても嬉しいこと」。

 選手たちは高嶋監督の心理操縦術に心酔しているのだ。

 そんな3年生のやる気をかっての大胆な選手起用だが、智弁和歌山にとっては今に始まった策ではない。過去のどの大会を振り返っても智弁和歌山は、いや、高嶋監督は3年生の気持ちを大事にしてきた。過去に何度もあった智弁和歌山の奇跡的な逆転劇の引き金になっているのは、3年生の意地だったのだ。

「最後は気持ち。相手には負けたくないんだという。試合前日に『明日(和歌山に)帰りたいんか?』と聞いたら、『帰りたくない』と選手たちは言う。だったら、勝たんかいと」

 いわば、精神論、根性論である。

今も昔も変わらない指導法は「誰にも負けへん」主義。

 高嶋監督の精神論は、キャリアのスタートとなった智弁学園高(奈良)時代にそのルーツを持つ。

 高嶋の大学の先輩で、智弁学園当時に野球部の部長を務めていた和泉健守からこんな話を聞いたことがある。

「高嶋の野球は、奈良におったころは徹底的に“守備の野球”やった。まぁ、木製バットやったからというのもあったんやけどね。和歌山に行ってから、今は打撃のチームになってるけど、でもな、ひとつ言えるのは高嶋の練習っていうのは今も昔も『誰にも負けへん!』という精神を鍛えるための練習やということ。そういうのが根本にある。ノックの厳しさなんか日本一の厳しさやで」

<次ページに続く>

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