ヒディンクとベニテスにみる、
「4-2-3-1潰し」と
「4-3-3破り」の極意。

田邊雅之 = 文 ⇒この著者の記事一覧

text by Masayuki Tanabe

photograph by Action Images/AFLO

ヒディンクとベニテスにみる、「4-2-3-1潰し」と「4-3-3破り」の極意。

 ランパードが強烈なシュートで引き離せば、ルーカスがミドルで追いすがる。カイトがヘディングでさらに望みをつなぐと、ランパードが枠内ギリギリの一撃で止めを刺す。CL準々決勝、リバプール対チェルシーのセカンドレグは4対4で終了。チェルシーは1勝1分け(トータルスコア7-5)でベスト4進出を決めた。

 ドラマに次ぐドラマ。一瞬たりとも目を離せないスリリングな展開。今回の試合はCL史上に残る名勝負になった。だが死闘が演じられたのはピッチ上だけではない。ベニテスとヒディンクの両監督も、かつてないほど高度な「戦術戦」を繰り広げたからである。

ヒディンクが披露した「4-2-3-1潰し」の極意。

 リバプールホームの第1戦、チェルシーは大方の予想を覆して3-1の勝利を手にする。これを可能にしたのが、ヒディンクによる「4-2-3-1潰し」だった。

 試合に臨むにあたり、ヒディンクは4-3-3(4-1-2-3)を選択。「1」にエシアン、「2」にバラックとランパードを配置する。ダイヤモンド型の4-4-2や4-1-3-2、守備重視の4-2-3-1やオーソドックスな4-4-2を選ぶ道もあったはずだが、最終的に選んだのは慣れ親しんだ4-3-3だった。(バラックはランパードよりも下がり気味だったため、チェルシーの中盤の三角形は斜めになっていたが、基本的には4-3-3、4-1-2-3として捉えていいだろう)

 この策はズバリと的中。ヒディンクはリバプールから牙を抜くことに成功する。

 まずは守備における4-2-3-1潰しから。この試合のジェラードは奇妙なほど存在感がなかった。理由は簡単。エシアンに封じ込められたからだ。

 たしかにエシアンは守備の専門家ではない。むしろDFもこなせる万能選手というのが正しい。とはいえ、あれほどの身体能力を持つ選手が守備に徹すれば、ジェラードといえども真価を発揮するのは難しくなる。結果、ジェラードとトーレスとの間にいつものような連動は生まれず、カイトやリエラがサイドを抉った場合でも、チェルシーの守備陣はジェラードの動きを気にせず冷静に対処することができた。ジェラードは、代名詞ともいえるミドルシュートさえろくに打たせてもらえなかった。

 他方、攻撃における4-2-3-1潰しの極意は、バラックとランパードの働きにある。両者が対峙したのはシャビ・アロンソとルーカス。アロンソはともかく、ルーカスの守備能力は決して高くはない。それでもマーク役に徹すれば救いはあったが、試合中は、本来の役割を忘れて、中途半端に上がっていく場面がしばしば見られた。

 しっぺ返しは当然くる。足枷のないランパードはCFのドログバにボールを預けたり、あるいは「3」の両脇にいるカルーやマルダにパスを叩いたりしながら、ボックスまで自由に走りこんでいくことができた。

 それに輪をかけたのがリバプール守備陣の不調である。リバプールはトーレスのゴールで序盤こそ優位に立ったが、やがてはパスカットやドログバへの楔を足がかりにしたカウンターにさらされ、最終的には3度もゴールを割られてしまった。

 ヒディンクは、リバプール流の4-2-3-1の生命線が、守備と組み立てを担当する「2」と攻撃の軸となる「3」の中央であることを改めて明らかにした。リバプール中盤の三角形(ルーカス、アロンソ、ジェラード)を4-3-3の逆三角形(ランパード、バラック、エシアン)で覆い、アンフィールドを沈黙させたのである。

<次ページに続く>

► 【次ページ】 ベニテスが採用した「4-3-3破り」の奇策。


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