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「野性味」溢れる次世代エース。 

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横井伸幸

横井伸幸Nobuyuki Yokoi

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photograph byPanoramiC/AFLO

posted2009/02/26 00:00

「野性味」溢れる次世代エース。<Number Web> photograph by PanoramiC/AFLO

 2月11日の親善試合スペイン対イングランドにバルサのセルヒオ・ブスケッツが招集された。セスクが故障中という事情はあったし、ピッチに立つには至らなかったが、1部デビューからたったの5カ月で初代表である。もっというなら、彼はほんの8カ月前まで3部でプレイしていた選手。U-21代表に呼ばれたのだって昨年の10月が最初。それが現時点でスペイン最高の22人に選ばれたのだから大したものだ。

 ただし、新人ということを忘れて、ただ試合ぶりだけを見るなら、それほど驚くことでもない。ブスケッツの実力はクライフの御墨付きだ。リーガデビューとなった第2節のプレイを見たクライフは、地元バルセロナの新聞で彼を絶賛している。

「技術的にはトゥーレやケイタより上。ポジションの取り方は、味方ボールのときも相手ボールのときも、ベテランのよう。自分がボールを持ったときはワンタッチ、ツータッチでパスが出せるし、敵が持っているときは、無駄に走ることなく奪い返せる位置に立っている。まだ若く、経験もないというのに。彼の監督(グアルディオラ)が現役だった頃と同じだ」

 さらに、20歳という年齢に見合わぬ落ち着きがあって、場の雰囲気に飲まれることがない。リーガでもチャンピオンズリーグでも、果ては彼のような根っからのバルサっ子ならアドレナリン出まくりのレアル・マドリー戦でも、慌てたり焦ったりはなし。肝っ玉が太いのだろう――と書くのは簡単だが、これは努力して得られるものでもなければ、教えられ学べるものでもない天性のアドバンテージだ。デビュー当時のメッシやシャビ、イニエスタにも見られた特長である。 

 ところで、カンテラ出身組に分類されるブスケッツだが、彼はバルサで純粋培養された選手ではない。入団したのは2005年で、17歳のとき。同じ中盤のシャビやイニエスタらは12歳でカンテラ入りしているから随分遅い。

 実はブスケッツも同じ年の頃、一度入団テストを受けたが不合格となってしまった。そこで仕方なく地元のクラブに戻り、たいした整備もされていない土のグラウンドでサッカーを続けていた。

 カンテラ時代のコーチによると、こうした経歴が今のブスケッツの武器になっているというから面白い。

「さまざまな状況に自分を合わせていかねばならなかったおかげで、抜け目のなさや要領の良さを身に付けた。ずっとバルサにいたらそうはならない。小クラブで育ったことがプラスになっている。ストリートサッカーの感覚を持っている」

 なるほど彼には、カンテラで大事に育てられたエリートにはない“野性”がある。たとえばファウルを受けた際、相手にカードを喰らわせるずる賢さがそうだ。くだんの代表戦までに誘ったイエローカードは18枚。レッドカードは2枚。ライカールト時代のデコに通じる、イヤらしい巧さである。確かな技術やセンスを持った上でこうなのだから、「スーパクラックではないが、監督が高く買うタイプ」とバルサの関係者が評価するのも納得できる。

 こんなブスケッツの発掘を、グアルディオラの今季第一の功績に挙げる人は多い。小さな声ながら、“敵地”マドリー方面からも聞こえてくる。代表選出イコール国の財産なのだから、まあ当然だ。

 実際、グアルディオラがいなかったら、今のブスケッツはなかっただろう。2年前、ユースチームで頑張っていた線の細い一選手をBチームに拾い上げたのはグアルディオラ。その1年後、トップチームに引っ張ったのもグアルディオラ。さらに、そのままベンチに放っておくのではなく早速チャンスを与え、以後継続的に使ってきたのもグアルディオラである。

 ただ、彼もブスケッツをひいきしたワケではない。結局のところ、監督の慧眼は勝てるチームを作るためにあるのだ。ブスケッツの抜擢はあくまでバルサを強くするためだった。その結果、彼は活躍し、デル・ボスケ代表監督の目に留まったということだ。

 スペイン代表の次戦は3月末のワールドカップ予選トルコ戦。ブスケッツが再び招集される可能性は十分ある。デル・ボスケにも慧眼があれば、ひょっとしたら出場機会も……。

セルヒオ・ブスケッツ
バルセロナ

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